仏教者の活動紹介

集える、憩える、「子どものお寺」

(ぴっぱら2016年9-10月号掲載)

第40回正力賞受賞者の活動 ―五位堂安養日曜学校―

万葉集にも詠まれた二上山の麓に、香芝市五位堂という街がある。ここは交通の便がよいことから、近年、奈良県内でも有数のベッドタウンとして栄えている。対して、古くから梵鐘などを製造する鋳造産業で栄えた旧市街地は、現在でも蔵を備えた重厚な家々が立ち並び、かつての趣を今に伝えていた。
 浄土宗寳樹寺は、そんな旧き佳き住宅街の一角にあった。今年、正力松太郎賞を受賞した「五位堂安養日曜学校」は、ここ寳樹寺の先々代、第45世中村実道住職によって始められたものだ。今では、現住職の中村勝胤さんが引き継ぎ、今なお多くの子どもたちをお寺に集めている。

●歴史ある日曜学校

寳樹寺が日曜学校を始めたのは、今から70年近く前のこと。戦後の混乱の中、地域の子どもたちを健やかに育成したいという願いがあってのことだった。
 中村さんの父でもある先代住職、隆宣師指導のもと、子どもたちは月に2回ほどお寺に集まり、仏さまに手を合わせ、手遊びやハンカチ落としなどのレクリエーションを楽しんだ。中村さん自身も幼い頃から、父と祖父が家族ぐるみで行っていたこの日曜学校に参加していたそうだ。
 高度経済成長を遂げ、すっかり街が豊かになった1970年代の終わり頃、子どもたちはスポーツクラブや塾通いで次第にお寺からは足が遠のいていく。日曜学校も一時休止していた時期があったそうだが、復活させたのは「子どもの頃、自分も参加して楽しかったから、またやろうよ」という、高校生だった中村さんの一言だった。
 全青協で実施していた、日曜学校指導者のための研修会にも、中村さんは当時、最年少で参加していた。若い頃からノウハウを学んだ中村さんは、今では月に1回程度、土曜学校という形で、花まつりやお地蔵さんのご縁日など、仏教行事などにあわせた集いを開いている。近所のお寺と合同で行う催しもあり、時には企業に依頼しての社会科見学など、バラエティに富んだ経験を子どもたちに提供している。

●大人気の〝修行体験〟も

 子どもたちに特に人気があるのは、2月に行われる「子ども寒行」という行事だ。
 この2日間は、子どもたちは夕方に集合し、お坊さんと一緒にお念仏を唱えながら町内を練り歩く。この日ばかりは修行ということで、私語は厳禁。それなのに、毎年60人もの子どもが参加するという。
 「子ども寒行の2日間は、最後にごほうびのカレーが出るので、カレー目当てなのかもしれません」と、中村さんはいたずらっぽく微笑む。元々はお坊さんだけの托鉢行だったのが、子どもたちが面白そうだとついて回るようになり、今の形になったそうだ。子どもたちは意外にも、こうした修行体験を非日常の経験として楽しんでしまうのかもしれない。
 夏に行われる「地蔵めぐり」も、多くの子どもたちが参加する行事のひとつだ。
 お地蔵様をおまつりしているお寺をめぐり、およそ6㎞の道のりを仲間たちと歩いて行く。汗だくにもなり、決して楽な道のりではないが、達成感でいっぱいになった子どもたちの表情には、目を見張るものがあると、中村さんは語る。

●毎週水曜日は「子ども文庫」

 土曜学校のほかにも、子ども教化の一環として寳樹寺では、毎週水曜日、年間のべ2000人もの子どもがお寺に足を運ぶ「五位堂子ども文庫」を行っている。これはその名の通り、子どもたちが自由に本を読み、貸し出しを受けられる活動である。
 「ふだんは20~40人、多いときには60人くらいの子どもがやってきます」と中村さん。きっかけは、個人でこの活動をしていた人から、自分は引っ越すので本を受け継いでもらえないかと声を掛けられたことだった。この活動も、開始から35年ほどになる。
 当初は、たくさんの本を抱えてうれしそうに帰っていく子どもたちであふれたそうだ。しかし最近では、様子が少し違ってきているそうで......。
 「今、本を目当てに来る子はほとんどいないんです。代わりにゲーム機を持ち込む子が増えましたね。本を読まずにゲームばかりしているので、『ゲーム機は禁止!』としたこともあったんです。でも、酷寒酷暑の中を縁側で遊んでいるので『もうええわ! 中へ入れ』となりました」と、中村さんは笑う。
 これでは、ただ遊ばせているだけ。果たしてそれでいいのかな......と思っていた中村さんの考えも、お寺に来て安心してくつろぐ子どもたちの姿を見て徐々に変わっていった。ただの「居場所」であってもよいのではないかと、考えるようになったそうだ。
 「はっきり言ってみんな悪ガキですよ。口は悪いし、言うことは聞かないし......。でも、行事の日以外でも、子どもたちは普通にお寺に寄って来るんです。「怪我したから手当てしてー」って言ってきたり。自分の家だって近いのにね(笑)。子どもたちにとって居心地がよいなら、それはそれで嬉しいですよね」

●お堂でのびのびと

 子ども文庫の日にお邪魔をしてみると、中村さんの言葉通り、やはり〝ゲーム派〟が優勢なのか、畳の上で円座になって対戦ゲームをする子どもたちの輪が、いくつもできていた。
 「花札知ってる?」「知ってるよ!いのしかちょう(猪鹿蝶)やろ?」と、声を上げたのは高学年の女の子たち。中村さんと子どもたちで花札が始まった。
 しばらくすると、低学年の男の子がやってきて、手が空いた中村さんの膝にちょこんと腰掛けた。お父さんでも親戚でもないのに、安心しきっていることが見て取れる。これほど子どもとの距離が近い指導者も珍しい。
 そして、子どもたちからは「つるポン」と呼ばれているという中村さん。「最初はお兄ちゃん、と呼んでくれていたんですけど、最近はいつの間にか『つるポン』が定着してしまって......」中村さんはそう言って丸い頭をかいた。優しく親しみやすいキャラクターは、子どもたちにこころの距離を感じさせないのだろう。
 「僕は子どもが大好きです。だからこそ、悪いことをしたり、危ないことをしたら叱らなくてはなりません。今の子って叱られ慣れていなくて、ある意味、甘えん坊。だから、よほど自分のことを想ってくれているという信頼関係がなければ、受け入れてくれないんです。普段から子どもたちと接して、信頼関係を築くことが、子ども教化の第一歩だと思います」

●こころのオアシスを子どもたちに

 子ども文庫が終わる夕方には、子どもたちが「やらせて~」と楽しみにしているお寺の暮れ六つの鐘を、お念仏をしながら一緒に撞くのだそうだ。何気ない子ども時代の一コマのようだが、その音色はお守りのように、一生その子のこころに響き続けるのだろう。
 拙速な現代社会で、羽を休める時間も場所も持たないまま、子どもたちは思いの外、家族や友人に気を遣って過ごしている。いつも、そこに存在してくれていて、温かく迎えてくれる場所――。子どもたちが自分らしさを取り戻せるオアシスのような空間を、寳樹寺は子どもたちに提供しているように見えた。
 本当は、今こそ、こうして憩える場所が子どもたちには必要なのだ。全国に8万箇所あると言われるお寺が果たせる役割の大きさを、当事者である仏教者はもう少し敏感に感じる必要がありそうだ。
 大きな場所でなくてもいい。お金をかけることが、重要でもない。五位堂の〝子どものお寺〟には、今日も子どもたちの声が絶えない。

いのちをつなぐ〝コーヒーサロン〟 -曹洞宗月宗寺-