東日本大震災支援

2011.06.06

子どもたちの笑顔に支えられて ―被災3カ月目の支援活動―

「お坊さん、また来てくれたね!」

7歳の女の子が笑顔でそんな言葉を発してくれました。彼女に会うのは2週間ぶりのこと。石巻市立門脇中学校での避難生活はすでに3カ月目に入りました。4月21日からは遅れていた新学期がはじまり、被災した門脇小学校も校舎を間借りすることになったため、生活空間であった教室を後にして、家族で体育館へと移動してきたのです。

200名ほどの避難者の中で、小学生は14〜15名。彼女も、もちろんそのうちの一人です。私たちの姿を見つけると、すぐさま近寄ってきて小さな手でこちらの腰にまとわりついてきます。

「また会えたね」「元気だった?」と言葉をかけると、彼女は、はにかみながら拳で軽いパンチを繰り出してきます。「痛いよ」と声を上げると、さらにパンチの強さが増してきます。

彼女の両親も、家を失い、仕事を失った中で、先行きの見えない不安感に心打ちひしがれているのかもしれません。そんな状況の大人を目の前にして、子どもたちはおとなしい良い子を演じるしか術はないようです。その上、高齢者が休んでいる避難所で、大声を出したり暴れ回ったりすることも憚られます。知らず知らずのうちに、彼女たちのこころの中には、行き場のないわだかまりが生じても不思議はありません。

とはいえ、外部から私たちのような来訪者が訪れたときは無礼講。感情が一気に爆発します。それは、こころの健康を保つためには必須なことだと、私たちは理解しています。彼女のそのような反応につられて、体育館のあちらこちらから一人、二人と小学生の子どもたちが集まり始めます。

「今日はなにして遊ぶ?」

「なにして遊ぶ?」

子どもたちの口から次々と同じ言葉が発せられます。「今日はね、遊ぶ前に、みんなと一緒にチョコフォンデュっていうのをやろうと思うんだ」と答えると、「え〜っ、なにそれ?」と、聞きなれない名前に再び異口同音の反応です。

しかし、そこに「チョコ」という単語が含まれていたことを子どもたちは聞き逃しません。子どもたちの目は、早くもキラキラと輝きはじめました。私たちはこの日のために用意してきた、とっておきのチョコレートフォンデュの機械を組み立てはじめます。子どもたちは機械を取り囲み、興味深げにその作業をのぞき込みます。

◆心身の健康を念頭に

なぜチョコレートフォンデュの機械を持ち込んだのか、その訳は、ただ子どもたちを楽しませるためだけではありません。避難所では、どうしても保存食中心の食べ物が多くなります。その反面、みずみずしい果物や野菜を口にする機会が極めて制限されています。

バナナやキウイ、パイナップルなどのビタミン豊富な果物に、チョコを絡めてより食べやすくすることで、不足しがちな栄養を補ってもらうことを意図してのものでした。

10分ほどで2台の機械を組み立て終わり、いよいよ電源をONに。ヒーターで温まった鍋底に、少しずつチョコチップを入れていきます。

子どもたちは「やらせて、やらせて」と我先にと、スタッフが持っている袋をわしづかみにします。「少しずつ入れていくんだよ」と優しく諭しながら共同作業が始まりました。温められたチョコチップは溶けはじめ、液状になっていきます。

しかし困ったことに、なぜか溶けるスピードが上がりません。なぜだろうとみんなで考えていると、一人のスタッフが「あっ、チョコを湯煎(にかけるの忘れてた」と、一言。5人ほどのスタッフはみな唖然(冷や汗)。

でも、いまさら後には引き返せません。サラダ油をひとさじ分ずつ加えながら、子どももスタッフも一緒になって、鍋底のチョコを必死にしゃもじでかき交ぜます。

「なかなか溶けないね」と言う子どもの頬に、溶け始めたチョコがピュッと飛び跳ねました。手でそのチョコをぬぐい去ろうとすると、逆に顔中がチョコまみれになっていきます。ほどなくして、すべての子どもの顔や服がチョコまみれに......。

しかし、子どもたちはそんなことはお構いなし。少しでも早く鍋の中央にそびえるツリーから溢れ出てくるチョコを見ようと、そして、フルーツにチョコを絡めて食べようと、みんな必死の形相です。

◆子どもたちに力をもらって

20分ほど鍋底をかき交ぜた末、ようやく、ブワッ、ブワッとツリーの間から溶けたチョコが溢れ出しはじめました。「わ〜い」と子どもたちは声を上げ、フォークに刺したフルーツにチョコレートの滝を浴びせかけます。「おいしい」と口にほおばりながら、また次のフルーツへ。チョコまみれの子どもたちは、みな満面の笑顔になりました。その一方で、スタッフは相変わらず飛び散るチョコレートに大わらわ。

いつの間にか大人たちも周囲に集まりはじめ、「私たちもいただいていいですか?」と、子どもも大人も一緒になってチョコレートフォンデューを楽しみました。

ほどなくして、「おじいちゃんやおばあちゃんたちにも、あげようよ」と子どもたちが言い出し、チョコレートでコーティングされた果物を紙皿に持って、スタッフと一緒に避難所の高齢者の方々に宅配をはじめました。「どうもありがとう」「初めて食べるわ」と、喜んでくれる高齢者と子どもたちの間に、私たちは温かな絆を感じていました。

私たちが避難所を訪問する際に心がけるのは、避難している方々の心身のケアはもちろんのこと、生活の質(QOL)を豊かにさせていただくお手伝いができれば、ということです。

この日はチョコレートフォンデュの他にも、映画の上映、バルーンアートの実演、大道芸、ミニコンサートなどを会場で行い、子どもたちの明るい声によって、避難所全体は朗らかな雰囲気に包まれたように思います。

帰り際には子どもたちが名残惜しそうに私たちのまわりに集い、「また来てね」「約束だからね」と言いながら最後まで見送ってくれました。

私たちは被災した方の支援を目的として避難所などへお伺いしているのですが、その度に、いつも子どもたちから力をもらっていることを実感しています。支援する側が、むしろ精神的には支援されている側でもあることに気づかされるのです。

◆支援活動への理解と協力を

3月11日の震災発生以来、全青協では、加盟教団や会員、協賛企業などの皆さまからご協力をいただき、さまざまな形で被災した方々の支援を行っています。

食料や衣料など生活物資の配布、炊き出し、行茶(傾聴)活動、ミニコンサートやアトラクションの開催、お亡くなりになった方々の慰霊法要ほか、子どもたちへの絵本の配布、花祭りグッズの提供、巡回子ども会の開催などを、ボランティア登録をしてくださった全青協会員を中心に行ってきました。

また、支援を申し出ている団体や企業などを、その支援内容に応じて被災地の方々とマッチングする、コーディネーション活動も行っています。このほか、傾聴ボランティアの養成講座を東京や京都などで開催し、受講した方々に、随時、被災地に入っていただいています。

今回は、全青協が行っている避難所での活動の一部を、子どもたちの声を交えながらご紹介しました。全青協では今後も中・長期にわたり、被災した子どもたちをはじめ、今、支援を必要としている方々のお役に立ちたいと考えています。

東日本大震災支援活動「すべての人が安心できる つながりと支え合い」 災害ボランティアに参加して
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