寺子屋指導者研修会

2020.11.30

いのちの共生を考えるー子どもたちに豊かな地球をつなぐキャンペーン始動!

11月18日、全青協では、「いのちの共生を考える―新型コロナ時代における社会の在り方―」と題して、指導者研修会と臨床仏教研究所の公開研究会を開催いたしました。
 新型コロナウイルスが流行する中、微生物も含めた共生するいのちのあり方について学び、そして、この地球を持続可能なものとするために、「子どもたちに豊かな地球をつなぐキャンペーン」と題して、志を同じくして環境問題に取り組む仏教系2団体と共にプレスリリースを行いました。

◆ウイルスとヒトとの長い歴史
 第1部の基調講演では、公衆衛生の専門家である東京大学名誉教授の大井玄先生をお招きして、「いのちの共生」と題してお話いただきました。先生は、ウイルスの進化の速さは、ヒトの50~100万倍であると述べられました。40億年の生物の歴史の中で、哺乳類の発生にはウイルスが必要であり、また、ヒトが免疫効果を高め生きていくために、微生物やウイルスが必要な役割を果たしてきたのです。
 先生によると、感染症の流行の三要因は①病原体 ②ホスト ③環境条件の3つに分かれるとのことです。今回の感染拡大の最も大きな要因となったのが、③環境条件、すなわち、ウイルスへの初期対応・指導者の対応でした。「そんなものなどあり得ない」「そのうち、それは消えるよ」と、あらゆる国の代表が、地球上での密接なつながりを無視し、その結果、感染は広まっていきました。
 また、歴史上、これまで様々なウイルスは、野生動物を宿主としてきました。先生は「今後、世界の人口が増えていくことで、一体どうなるでしょうか?」と、会場に問いかけました。
 先生によれば、人間が野生動物の棲息地に侵入し、棲息地を破壊することによって接触が増え、人間は、ウイルスと遭遇することが今後ますます増えていくというのです。
 先生は「決して人間のために、動物や植物、地球があるのではない。この地球上には、好きなものも嫌いなものも含めてすべて存在し、変化しながらつながりあっている。まさに仏教においての『無常』『無我』、そして『相依相関』であると言えるだろう」と、話を結びました。

◆環境破壊から環境再生へむけて
 地球温暖化が問題視されてから長い年月が経ちます。しかし、こうした環境問題に対する各国の動き、とくに日本の取り組みは決して十分なものとは言えません。環境問題による負の遺産を子どもたちに残さないために、全青協では、(公社)日本仏教保育協会、(公社)全日本仏教婦人連盟と協働し、「子どもたちに豊かな地球をつなぐキャンペーン」を行うことといたしました。
 同会場で行われたプレスリリースでは、各団体の代表がこのキャンペーンについて、現在の取り組みとこれからの抱負を述べました。
 日本仏教保育協会の髙山久照理事長は、「保育する側として、仏教的共存、つまり共生を意識しながら、子どもたちの同一化を図るのではなく、ひとりひとりの個性の豊かさを尊びながらお互いに学び合う姿勢を大切にしています。社会が子どもたちにとって適切な環境を整えておけば、子どもたちはその環境の中で、それぞれの特性を生かしながら自ら育ってゆくことでしょう。これからも、そのような保育の意識を全体で高めていきたい」と述べました。
 全日本仏教婦人連盟の本多端子理事長は、「これまでに『水はたからもの』『海はひとつ』というリーフレットを作成し、エコバックの推奨、花の種の配布などを行いながら環境問題に取り組んできました。慈愛の心をもって、身近なところからできることを行っていき、人と自然、そして大切な地球を子どもたちのために守っていきたい」と語りました。
 全青協の神仁主幹は「私たちは、お互いが寄り添いながら、支え合いながら存在しています(相互依存)。いま、私たちはさまざまな「いのち」の中で生かされていることを感じること、そして地球上のすべての「いのち」を慈しみ尊ぶ姿勢が求められています。近年、日本においても国連のSDGs(持続可能な開発目標)の働きかけが活発となっていますが、仏教界の中で、基本的な仏教の理念に基づいた活動のあり方を共有し、その中で、社会に発信していくことが重要となるでしょう。普遍的な、人の情操に根差す活動をしていきたい」と語り、SDGsの最終年である2030年までのアクションプラン10項目(下段)を発表しました。

アクションプラン10

1、各団体の既存事業に環境をテーマにアレンジメントを加え実施する
2、内閣総理大臣・環境大臣・文科大臣・厚労大臣、与野党代表等へ要望書を作成し提出する
3、年1回3団体共同イベントを開催する
4、教員・指導者向けガイドライン・マニュアルをメディアミックスで配信する
5、子ども向けの環境グッズを開発し配布又は頒布する
6、子ども向けアウトリーチプログラムを作成実施する
7、エコ寺院宣言・活動の啓発普及を行う
8、年2回連絡会議を開催する
9、各年度に事業評価を実施する
10、その他時宜に叶った活動を行う

◆最期まで「いのち」に寄り添う
 次に行われた臨床仏教師による事例発表では、第2期に認定された内山美由紀さんが、「東京慈恵会医科大学附属病院緩和ケア診療部における『いのちのケア』の実施報告―面談日誌からみえてくるスピリチュアルペイン―」をテーマに事例発表を行いました。
 スピリチュアル、すなわち「いのち」とは、「自己存在を成り立たせしめる根源的な力」のことをいいます。内山さんは、患者さんのスピリチュアルな問題はひとつではなく、いくつものスピリチュアルペインが重層的に含まれ、その時々のわずかな状況の変化に応じても日々大きく揺れ動いていると話しました。
 自分らしさとの葛藤、生き続けなければならない辛さ、死への恐怖感、いのちへの想い、生きたいという想い、人生の振り返り......。ほとんどの方が病床でそのような想い(スピリチュアルペイン)を抱えているにも関わらず、その恐怖を積極的に語ることのできる方はおられないとのことです。
 「まるで研究所に入ってるみたいだ・・・・・・」。重い病を得たある入院患者さんは、自身の心情を内山さんの前でそう打ち明けました。治療が進み、思いのほか生き続けなければならない状況になり、その方は死ぬ覚悟の気持ちと、治療をしながら生きていたいという気持ちを行ったり来たりされていました。
 病の進行が進み、せん妄状態になられたその患者さんを前に、ご家族は「できることが何もない」と途方に暮れていらっしゃいました。内山さんは、ご家族に「側に行って手を取ってあげてください」と声をかけました。
 そうして手を取られた患者さんは、ご家族の方の手の温かさ、なじみ深い声に落ち着きを取り戻していかれたといいます。「わたしにもまだ、やってあげられることがあったのですね」と涙を流されたというご家族――。苦しみを抱える方にとって、ご家族や大切な方とのつながりは、最期に近づいていくほど、希望の光、救いとなるという事例を、内山さんは紹介してくださいました。
 そして内山さんは、今後の課題の中で、「慈悲の4つのまなざし」について述べました。他者の喜びをともによろこぶこと(随喜)、たとえそれが解かち合うこと(隋悲)、どのような相手に対しても深い敬意と尊敬を持って接すること(恭敬)、自分の至らなさに常に目を向け自覚すること(還愚)、これらが、「いのち」を慈しみ尊ぶ臨床仏教師として大切な姿勢であると語りました。
 最後に内山さんは、「われは草なり 伸びんとす 伸びられるとき 伸びんとす 伸びられぬ日は 伸びぬなり 伸びられる日は 伸びるなり――」と、一つの詩を紹介されました。
 この詩は、内山さんが、病に苦しむがん患者さんのもとで朗読された、高見順さんの詩です。その患者さんは快復された後に、「苦しい時、この詩を聴かせてもらったら、死への恐怖がスーッと薄らいで楽になった」と、語られたそうです。
芽が出て、花を咲かせ、果実が実り、種をつくり、枯れてゆく植物のように、「いのち」を育みつづける一生は、この地球上において、人間もまた同じです。植物、動物、人間、さまざまな「いのち」はこの地球上で共生し合いながら生きています。「いのち」を慈しみ尊ぶこと、それは、人が生きていく上で、また、死と向き合う際にも大切なことではないでしょうか。
 神主幹は最後に、「環境には自然環境と社会環境がある。現在の社会環境においては、コロナ禍の雇い止めによる生活困窮、児童虐待などが、また、高齢の方においては終末期ケアのあり方など、様々な問題がある。それらを含め、すべてはつながり合いながら存在している。
 自然環境と社会環境の両面において、時空を超えた相依相関に目を向けていくこと、そして、すべての『いのち』に対して、できることから慈悲に基づく行動を行ってゆくことが、子どもたちへの豊かな未来、地球を残すことにつながっていくのではないか」と述べました。

 

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