ぴっぱら国際児童基金

2014.04.09

パンを待つ子どもたち―インド・サールナートに生きる―

◆広がる貧富の格差

1.school.jpgサールナート(鹿野苑)は、お釈迦さまが初めてお弟子さんに教えを説いた「初転法輪」の地です。仏教のサンガ(僧伽・集団)が初めて誕生した場所でもあります。今では日本をはじめ、スリランカ、タイ、中国など、さまざまな仏教国の寺院も建ち並んでいます。

私たち全青協がこの初転法輪の地で、子どもたちの支援を始めたのは、今から13年前のことです。2001年は、国連が定めた「国際ボランティア年」でした。全青協と全日本仏教婦人連盟は、この国際ボランティア年を記念して、「ぴっぱら国際児童基金」を立ち上げ、子どもたちの教育・健康・自立を柱として活動を続けてきました。

インドでは今なお10人に一人の子どもたちが、5歳まで生きることができず幼い命を落としています。また、5歳から14歳までの10人に一人が、過酷な児童労働に従事させられています。

2.sunday school.jpg教育環境も決して充分なものとは言えません。義務教育制度があるにもかかわらず、小学校をまともに卒業できる子どもは国全体で7割程度、中学校への進学率も6割程度に留まっています。サールナートのような農村部ではそれらはさらに低い数字になります。

経済が飛躍的に発展しているインドではありますが、残念ながら貧富の格差は年々大きくなってきています。低学歴の成人の就職先は限られており、父親や母親となって後も充分な収入を得ることができません。それがために、子どもたちを児童労働へ駆り立てなければならない環境が存在します。

低賃金で単純労働に従事する労働者として、子どもたちは雇用者から歓迎されているのです。中には人身売買(商業的搾取)に近い形で、親から雇用者に引き渡されているケースも少なくありません。仕事を持てない親たちは、その賃金で家計を一時やりくりします。


3.school.jpgしかし、その貴重な賃金でさえも、父親のアルコール代に換わってしまうことがしばしばあります。仕事を持てない父親たちは、男としてあるいは父親としての自尊心を保てずに、アルコールへ依存してしまうのです。そのような父親たちがDV(ドメスティック・バイオレンス)の加害者として、家族に暴力を振るうこともあります。

こうした環境の中で育った子どもたちもまた、遠からず同じ道を辿っていきます。負の連鎖が、世代を超えて続いてゆくのです。

◆子どもたちのシェルターの運営

この負の連鎖を断ち切るために力を尽くしているのが、子どもたちへの栄養供給と健康管理、そして、子どもたちへの教育機会の提供です。これらがしっかりと確保されれば、子どもたちは概ね自立の道を辿ることができるようになります。

現在、全青協はサールナートにおいて、現地で活動するSRF(シャンブナートシン・リサーチ・ファンデーション)とDCS(ダルマチャクラ・スクール)という二つのNGOと協働しながら、一人でも多くの子どもたちに支援を届けようと尽力しています。

SRFは、これまでチャイルド・ヘルプライン(子ども支援電話)を運営しながら、支援を必要としている子どもやその親のニーズに、物心両面で対応をしてきました。子どもたちへの虐待や児童労働に関する通報があった場合は、ソーシャルワーカーを派遣して子どもを保護しています。

SRFとの協働事業の中で、私たちはサールナートを含めた近郊の農村部において、保健・衛生についての教育プログラムを実施してきました。また、親から虐待を受けた子ども、児童労働に駆り立てられた子ども、家出をしてきた子どもたちをシェルター(一時保護所)に保護し、成育環境の改善に取り組んできました。

2005年にサールナートに建設したシェルター「ブッダン・サラナン」では、養母のもとで10名程度の子どもたちが生活すると共に、地域の中・高生を対象に自立支援のための教育プログラムを実施しています。

◆子どもたちに栄養と教育を

4.sunday school.jpgDCSとの協働事業では、未就学児童を対象とした日曜学校を開催してきました。毎週日曜日の午前中に地域の子どもたち100名ほどが寺に集まり、仏さまへのお祈りから始まり、読み書き算術の基礎を勉強します。帰宅時には栄養補給のためのパンや牛乳、果物などを持たせます。

日曜学校へ子どもを通わせる親たちにとっては、実はこの給食が大きな目的の一つとなっています。サールナート地域では、一日に一食しか食事をとることのできない家庭もいまだ少なくありません。この給食は、そのような家庭で育つ子どもたちの命を保つための大きな術ともなっているのです。

またDCSとは、貧困家庭の子どもたちを対象にした無料の中学・高校を運営してきました。現在、生徒の数は千人を超えるまでになりました。自宅では穴のあいた服を着ている子どもたちが、学校に通うときは支給された制服を着て、誰彼の区別無く、平等な立場で授業を受けることができます。もちろん教材や文房具も無償で提供しています。

5.study.jpg

家庭の状況を調査した上で、経済的な支援が必要な子どもには奨学金も供与しています。この奨学金の存在によって、子どもたちは児童労働へ駆り立てられずに、高校まで修了することが可能になっています。奨学生の総数は13年間で500名を超えました。

彼ら彼女たちの中からは、卒業後、教員やIT技術者になった子どもたちも出ています。私たちの支援によって、貧困の負の連鎖から抜け出した子どもたちが、少なからず誕生していることになります。

子どもたちからも「奨学金のおかげで無事に学校を卒業できます」「幼い頃からの夢が叶いそうです」といった嬉しい言葉が届いています。

◆健やかな子育ちを支援するために

さて、全青協がこの3月から取り組もうとしているのが、貧困家庭を対象にした無料クリニックの運営です。ここでは、病気の治療のみならず、妊産婦を対象にした保健衛生プログラムなども実施する予定です。

これまでサールナートには充分な医療施設がありませんでした。そのため、近郊の都市ベナレスまで患者は通わねばなりませんでした。しかしそれとて、経済的に余裕がなければままなりません。

6.sekihi.jpg無料クリニックには、当面、最低限の医療設備しか設置することができませんが、経済的に困窮状態にある方々のお役に幾分かは立てるものと信じています。今後さまざまな方々からご支援を頂きながら、教育現場の充実と併せて医療設備の充実を図っていきたいと考えています。

お釈迦さまの初転法輪の地で、子どもたちが法縁に抱かれ、健やかに育ち、それぞれの夢を叶えるための支援を、私たちは今後も続けてゆきます。

一人でも多くの方に、サールナートの子どもたちに関心を寄せていただければと願っています。

子どもの笑顔と出会う旅 インドの支援現場を訪問するスタディーツアー ぴっぱら国際児童基金
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