寺子屋ふぁみりあ

2012.12.05

ひきこもる若者たちの実態

12月5日(水)、明星大学人文学部心理学科教授の高塚雄介先生を招いて、「ひきこもる若者たちの実態~その背景要因と対応策について~」と題して、講演をしていただき、そのあとのグループトークでは、受講者からの質問に答えていただきました。

高塚先生は、ひきこもり状態の当事者の現在数を学術的に算出されたことでも有名です。
先生は、これまで当事者と語りながら、ひきこもる若者をめぐる問題を明らかにされてきました。

ひきこもりについての世間の認識を思わせるこのような意見があります。
現在、農業では従事者が減り、また、介護福祉の業界では従事者が少ないという事実があります。
その人手不足を打開する策として、ひきこもり状態にある若者をそれらの産業に送りこめばよいという意見です。

しかし、高塚先生は、このような個人の意向や向きなどを無視して、単に従事者が不足している産業にひきこもる若者を従事させればよいといった安直な考えに異を唱えておられました。
また、昨今の教育現場では、コミュニケーション能力の向上に躍起になっていますが、それは企業のためにはなっても、そうした教育で居場所をなくす若者がいることを先生は心配されていました。

高塚先生の講演の概要(以下は当日のレジュメを参考に作成)

内閣府の調査によれば、6ヵ月以上就業や就学をしていない若者たちで、

  1. 普段は家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出すると答えたのは、1.19%で46万人
  2. 普段は家にいるが、近所のコンビニエンスストアなどには出かけると答えたのは、0.40%で15.3万人
  3. 自室からは出るが、家からは出ないと答えたのは、0.09%で3.5万人
  4. 自室からほとんど出ないと答えたのは、0.12%で4.7万人

という調査結果があります。


厚生労働省による「ひきこもりの評価支援に関する新ガイドライン」では、ひきこもりの総数を全国26万世帯に存在すると推定し、「ひきこもりは原則として統合失調症の陽性陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべき」としています。
その根拠は、全国5ヵ所の精神保健福祉センターを訪れた184名のひきこもり相談の分析によります。

さらに医学モデルを軸として「ひきこもり」をとらえ、次のように説明をしています。

新ガイドラインに示された指針(ひきこもりの三分類と支援のステラテジー)では

第一群
統合失調症、気分障害、不安障害などを主診断とするひきこもりで、薬物療法などの生物学的治療が不可欠ないしはその有効性が期待されるもの
第二群
広汎性発達障害や知的障害などの発達障害を主診断とするひきこもりで発達障害で発達特性に応じた精神療法的アプローチや生活・就労支援が中心となる
第三群
パーソナル障害(ないしその傾向)や身体表現性障害、同一性の問題などを主診断とするひきこもりで、精神療法的アプローチや生活・就労支援が中心となる

となります。

しばしば使われる「社会的ひきこもり」という曖昧な概念は現場での混乱をもたらしていると思われます。
ひきこもりを状態像として見ることの限界があります。
あらゆるタイプの「ひきこもり」は、基本的に社会的行動から遠ざかっており、病気や障がいに起因するものも、結果的には「社会的ひきこもり」となります。→現場に行くほど見極め、境目が判然としてなくなり、混在する対象に対して一律的な対応が図られており、有効な対応が図られていません。→効果があがりません。

「ひきこもり」とは必ずしも「とじこもり」ではないとの認識が大切です。
不登校がひきこもりの原因であるかのように言われてきましたが、不登校のすべてが長期化すると「ひきこもり」になるわけではありません。
ただ、不登校の約半数が5年以上にわたり社会参加できていないという報告があることを無視してはなりません。

学校恐怖症型不登校→対人関係に緊張・不安を有する→ひきこもり化しやすい

登校拒否型不登校→主体性へのこだわりを有する→フリーター・ニート化しやすい(フリースクールなどへの参加により、一定程度の社会適応力はついている)

「ひきこもり」をもたらす背景要因には次のようなケースがあります。

  1. 不登校からやがてひきこもりになっていくケース
  2. 何らかの障がいや疾患があって、ひきこもりになっていくケース
  3. 社会の価値観の変化などによりもたらされるひきこもりのケース
  4. 心理的負担によりもたらされるひきこもりのケース
    (人間関係に対する苦手意識、自己完結的世界への埋没、興味や関心を抱く世界へののめり込み、失敗や挫折体験から立ち直れない)

この4に、最近のひきこもりの特徴が示されています。

そこで、青年期に見られる「ひきこもり」現象の移り変わりに注目すると、
1970年代は司法浪人たちの「ひきこもり」。1980年代からのアパシー・シンドロームが見せた「ひきこもり」。これにはエリート志向や上昇志向が見え隠れしました。
1990年代後半からは、ふれあい恐怖の出現となります。特に背景要因が明確にはならない若者たち(普通の若者たち)が見せる「ひきこもり」が増加しました。
当時のカルト集団に結集した若者たちに萌芽?

ひきこもる若者の心的世界をみると、これは一般の若者群にも共通していえることですが、先ず、自己へのこだわり(自尊心の高さ)が挙げられ、他者からの指示や命令を嫌う傾向があるともいえます。
これは、自尊心を傷つけたくない心理があり、現代社会における刷り込みがもたらす心的世界です。次に、こだわりを貫く自信をもたないで、批判や評価を恐れるのです。次に、人間関係に対する警戒心や不安感があり、そのために争いや対立を避ける傾向があります。
そして、自己完結的世界への埋没。自己決定・自己責任的世界の回避です。

そこで、彼らひきこもる若者がこどもの時の家庭環境を調べると、

  1. 親が過保護 18.6%(9.9%)
  2. 親のしつけが厳しかった 22.0%(33.6%)
  3. 家族に相談しても役が立たない 18.6%(18.3%)
  4. 我慢することが多かった 23.7%(42.0%)
  5. 親は学校の成績を重視していた 13.6%(17.6%)
  6. 自分で決めて相談することはなかった 15.3%(21.4%)

※( )は親和群
という調査結果でした。

次に、ひきこもる若者がこどもの時の学校での様子を調べると、いじめに関するエピソードが多く、

  1. 不登校にはならないが我慢することが多かった 55.9%(51.1%)
  2. 友達にいじめられた 42.4%(42.7%)
  3. いじめを見て見ぬふりをした 28.8%(32.8%)
  4. 友達をいじめた 15.3%(26.7%)
  5. 一人で遊んでいる方が楽しかった 27.1%(18.3%)
  6. 学校の勉強についていけなかった 23.7%(31.3%)
  7. 学校の先生とうまくいかなかった 18.6%(28.2%)

という結果です。

ひきこもる若者たちとは実は、現代社会が当然視する言語的コミュニケーション能力や、対人関係を構築する能力、テキパキと課題を遂行する能力といった教育課題・就業課題に乗れない若者たちです。
これらを有していないと、欠陥扱いされかねない社会状況があり、「いじめ」の温床でもあることに注目する必要があります。

では、家庭・家族でのひきこもりを予防するにはどのようにしたらよいのでしょうか。

幼児期からのふれあい体験が大切で、

  1. 親からの話しかけ、子どもの話を引き出す努力
  2. 一緒に何かをする(体験の共有)努力
  3. ほめることと、叱ることとのバランスを保つ努力
  4. 親の不安の投影としての過保護・過干渉を防ぐ
  5. 隣人・知人等との交流を図る努力
  6. 子どもの性格や資質を見極める努力
  7. 子育て支援の一環として、心理教育を行うこと

以上のことが挙げられます。

手のかからない、一見するとおとなしくて問題性を感じさせない子に、実は「ひきこもり」心性が存在することもあります。
そこで教育現場でのひきこもり予防としては次のことが挙げられます。

  1. 教育の評価基準を機械的にあてはめない
  2. 無理に集団への適応化を促したり強制したりしない
  3. 言語コミュニケーション能力の開発にこだわらない
  4. 周囲に相手の気持ちを察する力を育てる工夫をする
  5. 本人のプライドを尊重する対応につとめる
  6. キャリア教育の再検討を図る。今行われているキャリア教育は企業社会や組織に適応できる人間にすることに偏りがちである。ライフ・デザインをつくることが大切である。

以上のことが挙げられます。

あの時は、それから、今は... 高齢化するひきこもり家族のサバイバルプラン
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