寺子屋ふぁみりあ

2015.11.20

良いこと探しのコミュニケーションのススメ

 11月5日の寺子屋ふぁみりあは、カウンセリングルーム・ベア 精神保健福祉士の田中剛先生をお招きし、「良いこと探しのコミュニケーションのススメ」と題してご講演いただきました。

 20151105a.jpg

 田中先生は冒頭で「人間の行動が繰り返される要因、あるいは、繰り返されない要因には法則があり、この法則を理解することが大切である」とおっしゃいました。これについて、先生は「CRAFT」を推奨されています。

 「CRAFT」とは、行動分析と報酬のコントロールを促すアプローチ法です。それは、ある行動(・・・・)に対し、その前後も含めて記録し分析することで、その人の行動パターンを把握し、良い方向へと促していくものです。言い換えれば、日常の行動パターンから例外(良い行動)を見つけ出し、その例外(良い行動)を習慣にしていこうとするものです。

 例えば、「普段は日中ずっと寝ている」ひきこもりの方が、「午前中に起きる」という行動を取った日があるとします。このとき、「午前中に起きる」という例外(良い行動)を見逃さず、この前後の行動を含めて分析することで、「午前中に起きること」を習慣にしていこうというものです。そして、その際にポイントとなるのが、良い行動に対して「積極的に褒めること」で(す。人間は、好ましい報酬(例えば、褒められること)があったとき、その行動を繰り返すようになり、次第に定着していくそうです。そのためには、良い行動が起こったとき、それを見逃さず、即座に褒めることが重要です。

  午前中に起きた日の前日には何をしていたのか、午前中に起きたことを褒めたとき本人はどのような反応を取ったのか、これらを細かく記録し分析することで、良い行動は少しずつ習慣化されていくそうです。

 

これを図式化すれば以下のようになります。

 

 (行動)           (報酬)                (結果)

午前中に起きる  →  A「凄いね、偉いね」と褒める    →  たまに午前中に起きるようになる

         →  B「もっと早く起きろ」と注意する  →  日中寝ている生活を繰り返す

 

 「午前中に起きた」ことに対してAのような報酬を与えれば、「たまに午前中に起きるようになる」という結果が得られたとします。そこで、「たまに午前中に起きた」ときには、また褒めてあげます。そうすることで、午前中に起きる回数が少しずつ増えていきます。

 このように、「CRAFT」では、良い行動が起きたときには報酬を与え、それを繰り返し行うことで、少しずつ定着していくことを目指します。

 

 田中先生から、良い行動が起きる具体的な方法をいくつかアドバイスをいただきましたので、以下に紹介します。

・本人がひきこもるメリットを考える(いつ、どんなときに、本人は社会を回避しているのか、状況を把握する)

・暴力を避ける(本人の暴力のサインを分析する)

・コミュニケーションを変える(ポジティブに、共感を示し、シェアする)

・うまくいった方法は繰り返し、うまくいかなかった方法は破棄する

・家族自身の生活の質を上げる(家族が健康である方が、良い変化を評価できる)

・相談機関を勧める

 

 講演の中で、田中先生は、「良い行動を探し、それを積極的に褒めること」を繰り返し強調されていました。毎日変わらないようなひきこもり生活の中にも、ちょっとした変化を見逃さず、良い所を探し出し、褒めることが重要です。ひきこもり当事者を抱えるご家族は、望ましくない行動が起こったときに多く関わってしまいがちですが、そうではなく、望ましい行動が起こったときにこそ、本人と関わっていくことが求められます。

 田中先生のもとには、ご家族から「本人の意識を変えたい」という相談がよくあるそうです。しかし、意識を変える前に、行動を変えることが大切であり、行動が変わればそのあと意識も変わってくる、と先生はおっしゃっていました。そして、CRAFTのような行動療法は、比較的効果が出るのが早いそうです。

 20151105b.jpg

 また、先生はご家族が健康でいることの大切さも強調されていました。健康なご家族の方が、そうでない家族に比べて、ひきこもり当事者の回復にもつながりやすいというデータもあるとのことです。ご家族自身が趣味などの自分の時間をもって、ポジティブに充実した生活を送ることが、間接的に当事者の回復につながってくるそうです。

 さらに、相談機関に行くことの重要性にも言及されました。これは、当事者のご両親が亡くなって本人が経済的に苦しくなったとき、相談に行った記録が残っていることで、行政からの支援が受けやすくなるそうです。相談履歴を残しに行くという意味でも、継続して相談機関とつながっていることは重要です。

 

 田中先生は終始、柔らかい表情、柔らかい言葉、真摯な姿勢でお話されていました。また、「良い所を探して褒める」というすぐにでも実践できることを、体系的に、かつ、具体的に、様々なケースに対応する形でお話くださいました。理論明快でわかりやすく、とても有意義な寺子屋ふぁみりあでした。

 

 次回は12月3日(木)、ひきこもり経験のある青年3名をお招きし、ご自身のひきこもり経験に基づき、「あの時は、それから、今は...」というテーマでお話をうかがいます。また、そのあと16時半より懇親会も予定しております。

2014年度寺子屋ふぁみりあ参加者アンケート集計 寺子屋教育
前のページヘ 活動しようのトップへ