寺子屋ふぁみりあ

2015.10.15

大人のひきこもり-当事者が望む新たな社会との関係性-

 10月1日の「寺子屋ふぁみりあ」は、講師にジャーナリストの池上正樹さんをお招きしました。池上さんは、雑誌やネットを中心として、ひきこもりに関する多くの記事を書いていらっしゃいます。そのなかで、「高齢化する親の家に同居する中年世代の子どもとの"親子共倒れ"危機」という記事が大きな反響を呼び、「中年世代のひきこもり」が注目される時代にあることを改めて思い知らされたといいます。そこで、今回は「大人のひきこもり-当事者が望む新たな社会との関係性-」というテーマでご講演いただきました。池上さんは、ジャーナリストとして活動される一方、支援者として、ひきこもりの当事者と直接関わってもいらっしゃいます。また、厚生労働省ひきこもりガイドライン事業委員や東京都町田市ひきこもり専門部会委員も務めておられ、今回の講演は複合的な視点からお話を伺うことができました。

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 池上さんによると、ひきこもりの方は、心に「これ以上傷つけられたくない」「他人に迷惑をかけたくない」という想いがあり、それを防衛するために、ひきこもらざるを得ない状況になってしまうといいます。言い換えれば、そのような人は「勘がよく、周囲の気持ちがわかり過ぎる」「相手を気遣い過ぎて疲れてしまう」「すべてを丸く収めるために自分が我慢する」というような、優しい心の持ち主です。そこで、周囲の人には、ひきこもりの方に対し、「優しい心の持ち主が納得できない想いを一人で抱え込んで頑張ってきた」ということを理解してあげることが求められます。また、ひきこもりの方は、そういった苦悩をなかったことにしたり、秘密にしたりするのではなく、言葉にする作業が大切であるとも、池上さんは述べられました。しかし、現代社会では、ひきこまらざるを得なかった人の想いを受け止めるような場が少ないことが現状のようで、ひきこもりの方が安心して言葉を発するための場を作ることが要されています。

 池上さんは、「ひきこもりが問題ではない世の中」をテーマとして、「ひきこもり大学」や「庵」の活動に携わっていらっしゃいます。

 「ひきこもり大学」とは、ひきこもり当事者が講師となり、自らのひきこもり経験を通して得た見識や知恵を、家族や一般の人たちに向かって自らが望む形で講義するというものです。自ら講義をし、それを聞きたい人がいることで、自らのひきこもり経験が武器となり、ひきこもっていた空白の履歴が価値あるものに変わります。目の前に必要とされることが増え、喜びを感じることができます。さらに、ひきこもり大学の重要なポイントは、単なる体験発表や成功体験報告の場ではなく、寄付金箱を設置して集まった寄付金を講師への授業料として払うことで収入を得るという、社会参加への新しい一つの形となっていることです。また、「対人恐怖学科」「幸せな生き方研究学科」「弱さでつながる学科」など、講師が自ら自由に学科名をネーミングすることも特徴の一つです。

 もう一つの「庵」とは、「ひきこもりが問題でない未来を描く」をコンセプトに、ひきこもりに関心のある人たちが集まって共に過ごす対話の場です。対話によって、新しい関係性や価値を生み出し、様々な分野の課題について、未来志向で解決を図ろうという試みが取り入れられています。

 始まった当初に比べ、「ひきこもり大学」は全国各地で開催されるようになり、「庵」は参加人数が大幅に増えるなど、このような活動は着実に広がっているようです。

 さらに、池上さんは、こういった「場」について、単に居心地の良い場所が求められているわけではないということも指摘されています。こういった「場」には、「多様な社会資源や価値観を持つ人たちがいる場」「コミュニティ活動のきっかけを創れる場」「皆が共有できるテーマ(誰かの問い)がある場」「自分が将来、社会につながるイメージを持てる場」であることが要されるそうです。また、「個人的な話はこの場限り(安心・安全の時間であるために)」「自分の話は簡潔に(色んな方が話せるように)」「相手の話はうなずき多めで(反応してもらえると話しやすくなる)」といった、楽しく参加できるようなルール作りをすることも重要であるとのことです。

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 池上さんは、「ひきこもり大学」や「庵」のような活動の外に、まったく外に出ることができないような当事者とのメールのやり取りもなさっています。そのときには、メールを送ってくれた勇気に感謝の思いを伝え、まず第一に、安心感を持ってもらうことを心掛けているそうです。そのうえで、立場や目的が何であるのかを超えて、一人の人間として本人に向き合い、一人の人間として本人が望む方向にそっと手を差し伸べることが大切であるとおっしゃっていました。

 支援者として当事者一人ひとりと真摯に向き合いながら、ジャーナリストとしてひきこもりの問題を社会に発信し、また、行政にも発言できる立場にいらっしゃる池上さんのような方は、当事者や家族にとって、とても心強い存在であるように思います。講演の最後には、「ひきこもり」から「家にいる人」と、私たちが少し見方を変えるだけで、「ひきこもり」に対する社会の認識も変わっていくことを述べられ、「ひきこもりが問題ではない世の中」を目指して活動されている池上さんの強い思いを感じることができました。

  次回の「寺子屋ふぁみりあ」は11月5日、講師に精神保健福祉士の田中剛さんをお招きし、「良いこと探しコミュニケーションのススメ」というテーマでご講演いただきます。

「ガッショウ」という言葉から見えてくること 2014年度寺子屋ふぁみりあ参加者アンケート集計
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