生と死を見つめる集い

2016.03.18

生活困窮者の看取りから見えてくるもの

 2月18日、今年度最後の「生と死を見つめる集い」が開催されました。今回は、臨床仏教研究所研究員・大正大学非常勤講師の吉水岳彦師が、「生活困窮者の看取りから見えてくるもの」というテーマで講演しました。吉水師のご自坊は浅草の旧山野地区にあります。この地区には路上生活者も多く、吉水師は「社会慈業委員会 ひとさじの会」と称し、地域社会やNPO団体と協力しながら、生活困窮者の支援活動を行っております。

 近年、「貧困」という言葉を耳にする機会が増えました。書店に行けば「貧困」に関する多くの書籍が平積みされ、政治やメディアにおいても貧困問題に対して様々な議論がなされています。さらには、「無縁社会」や「孤独死」が社会問題となるなど、現代日本社会では、経済的貧困に加えて、人間関係の貧困も進みつつあります。また、「貧困」と「自死」の密接な関係が専門家によって指摘されています。そのような時代を生きる私たちは、経済的貧困と人間関係の貧困の両面を含めて、一人ひとりが「貧困」という問題に一度真剣に向き合ってみなければいけないのかもしれません。そういった意味でも、今回の「生と死を見つめる集い」は、たいへん貴重な時間となりました。

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 吉水師は冒頭で、参加者の皆さんに「ホームレスのイメージは?」と問いかけました。「汚くて臭い人」「怠けている人」「誰とも関わりたくない人」「近寄ってはいけない人」など、路上生活者に対し、勝手な偏見をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。勉強すべきときにしてこなかったから...、みんなが頑張っているときに怠けていたから...、路上生活者は自己責任だという意見があります。吉水師自身も支援活動に関わる以前は、少なからずそのような印象を持っていたそうです。しかし、実際に路上生活者の方と関わることで、そういったイメージは一変されました。路上生活者の方は、それぞれが自分の選べない環境の中で精一杯生きてきただけのことであるということに気づきました。私たちの住む世界は刻一刻と変化し続ける「無常」であり、自分を含めて、そこに生きるすべての存在は縁によって変わってしまうという、仏教の基本的な教えに改めて気づかされたそうです。

 私たちは知らず知らずのうちに、目の前の相手に対し、勝手な憶測をしてしまいます。「こういう人に違いない」と決めつけ、ときにはそれよって自分自身の態度まで変えてしまいます。吉水師は、そうではなく、誰に対してもその人の"いのち"そのものに敬意をもって接することが大切であると言います。どんな人でもいのちの重さに変わりはありません。もちろん、お金の有無によって、いのちの重さが変わることはありません。それは、路上生活者の支援に限らず、ひきこもりの方の支援でも、被災地の子ども達の支援でも、すべての"いのち"に敬意を表し、いかなる人をも軽んじることなく、深い愛情をもって接することが求められています。

 このような"いのち"に向き合う深い敬意と愛情の気持ち、仏教では「恭敬(くぎょう)の心」というそうですが、吉水師はこの「恭敬の心」の大切さを強調しています。私たちが生きるこの世界に無関係なものは一つもありません。家族や友人はもちろん、日本中のすべての人びと、世界中の全ての人びと、この世のあらゆる"いのち"に対し、恭敬の心で向き合わなければなりません。そして、この恭敬の精神は、会の最後に行う「慈悲の瞑想」にもつながってくるように思います。

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 吉水師は、「支援」という語を使わず、「支()」という字を当てています。"いのち"と向き合うためには、上から目線で「救おう」「助けよう」とするのではなく、到らない自分自身を自覚し、「互いに支え合うご縁」となることを目指すことが求められると、語られました。

 吉水師の路上生活者に対する想いは参加者全員の胸に大きく響きました。吉水師のお話を通して、参加者一人ひとりが、「いのち」「ご縁」「貧困」「生」「死」を含め、様々なことを現在の自分自身に照らし合わせながら真剣に考えました。口では簡単に言えたり、頭ではわかったつもりになってしまいがちである「慈悲」や「支援」といったことの本当の意味をもう一度考え直す貴重な時間となりました。吉水師から学んだ「恭敬の心」は「生と死を見つめる集い」の大きなキーワードとなりました。来年度も、様々なご縁に感謝し、一人ひとりが恭敬の心をもってお互いがお互いに支え合う会にしたいと思います。一年間、ありがとうございました。

 来年度は4月21日より始まります。初回は全青協主幹の神仁が「日本人の死生観・インド人の死生観」というテーマで講演いたします。

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