イベント

2008/3/7

全青協創立45周年記念事業・臨床仏教研究所設立記念シンポジウム
お寺の公益性を考えるシンポジウム2008 ―社会とつながる寺院の可能性を探る―

 全青協は2007年に創立45周年を迎え、その記念事業として、変動の激しい社会情勢を踏まえ、より時代のニーズに即した教育や福祉のあり方について広く提言するべく、今年3月7日をもって「臨床仏教研究所」を立ち上げました。その記念シンポジウムとして「お寺の公益性を考えるシンポジウム2008」が、同日、東京港区の「東京グランドホテル」櫻の間にて開催されました。事前予約では当初の予想を上回る反響があり、また当日は、寺院関係者をはじめ、一般の方々、マスコミ関係者など200名あまりが来場し、現代社会における寺院の役割と、新たな可能性に対する関心の深さがうかがえました。

◆研究所活動プレゼンテーション &寺院意識調査報告

 シンポジウムの開会に先立ち、全青協事務総長であり、臨床仏教研究所の所長に就任した斎藤昭俊による挨拶、そして全青協主幹で同研究所上席研究員の神仁による研究所活動プレゼンテーションが行われました。その後、石上和敬同研究所客員研究員によって、2007年に全青協会員(僧侶、寺族)を対象に行った寺院意識調査の報告が行われました。

 アンケート回答数は341通、回答者の平均年齢は61歳。アンケートによると、「寺院は地域社会に開かれるべきか」という質問に対しては9割以上の回答者が「そう思う」と答えており、また、「社会で必要とされていると思う活動は」という質問の回答としては、供養や布教活動といった、本来、寺院の本業とされるべき活動はもちろんのこと、一般の人びとの悩み相談や、日曜学校などに代表される、青少幼年に対する情操教育活動など。また、世相を反映してか、高齢化社会に対応する取り組みも必要であろうと過半数以上の回答者が考えているという結果となりました。さらに、アンケートに寄せられた会員の声も紹介されました。

 寺は開かれるべきか否か?という問いには、「社会貢献を行っていない寺はこれから忘れられていくと思う」「寺を訪れる人は遠近を問わない。住職の人間性が問われている。仏教を知りたい人はたくさんいる」「お寺を地域に解放すれば、また地域の人達がお寺に協力してくれる。お寺は地域のシンボル的存在でもある」など、お寺の公共性を推進したいという意見が多く見られました。

 その一方で、「(寺は開かれるべきとは)思わない。檀家数が多く、その世話だけで精一杯であるから」という慎重な意見もあるようでした。寺院の規模や地域性など、さまざまな条件、環境の違いにより寺院の公益活動に対する見解や、意欲に温度差が見られるのは当然のことで、研究所の調査研究がさらに期待されるところでもあるようです。

◆セッション1 「公益性とは何か?―― いま問われる寺院の公益性」

 2部構成のシンポジウムの第1部は、パネリストとして長谷川正浩氏(弁護士)世古一穂氏(金沢大学大学院教授)そして島薗進氏(東京大学教授・宗教学者)の3氏を招き、各氏の発題のちに鈴木晋怜上席研究員をコーディネーターとして、約45分間のディスカッションが行われました。

 最初に発言した長谷川氏は、宗教の持つ公益性について、本来、非常に漠然としたものであるとした上で、改革され、今後新たに施行される公益法人法の概要を説明しました。「そもそも国家権力が、宗教法人に公益性のあるなしを干渉するべきではない。しかし、寺院や僧侶であるわれわれの立場としてはしっかりと、寺院にどのような公益性があるのかを認識、自覚するべきです」と語り、公益法人法改正に臨む今後の寺院のありかたを指摘しました。

 次に世古氏は、営利と非営利について図示、概説しながら、寺院は本来、非営利の立場をとる市民セクター(NPOセクター)に分類されるべきであるにもかかわらず、営利を追求する企業セクター側に傾いていることが問題であると指摘。そして「不特定多数の人が集まって、不特定多数の人のために何かを行う、それこそが公益性です」と語りました。

 その上で、寺院が地域社会において公益的な活動を行うためには、マネージメントが必要不可欠であり、「NPOとしてのお寺」を寺院はもっと自覚し、お寺のもつ、地域に密着して存在してきたという素地を生かして積極的に活動していくべきではないかと提言しました。

 さらに、世古氏が提唱している、食を核としたコミュニティ支援の事業モデルである「コミュニティレストラン」を紹介。お寺を利用したコミュニティレストランはまだ存在しないので、ぜひ検討してみてください、と参加した寺院関係者に語っていました。

 宗教学の専門家である島薗氏は、世古氏の話を受け、コミュニティレストランについては寺院が行うことのできる公益的活動のひとつの可能性であると前置きした上で、何よりもお寺が本来果すべき「宗教らしさ」にこそ寺院の基礎的な価値があると発言。そして、「寺院として本来の役割を確実に果すことこそが公益性の基礎です」と、お寺の本分を自覚し、僧侶はたゆみなく求道するべきであると強調しました。

 さらに、長谷川氏の「昨今、問題とされているのはお寺としての利益と住職の利益が一致してしまっていることが多い」という発言を再掲、既存の寺院の形に固執し、利益を守ろうとすることがあればそれは大変な問題であると、注意を促しました。

 続くディスカッションは、コーディネーターからの問いかけに3氏が順に答えていく形で行われました。「現代の伝統教団のあり方について率直に提言して下さい」という問いに対して、3氏はそれぞれの専門家としての立場と経験から発言していました。中でも、長谷川氏の「現代の寺院はマンションの管理者のようなもので、檀家制度の中で葬儀と法要によって機能している」という発言は印象的で、お布施が高い、などと言われるのは宗教がいまやサービス業としてとらえられていることの表れである。お布施は代価でなく「布施行」であるということを一般の人に理解してもらえるよう寺院は努力し、同時に僧侶も宗教者として常に研鑽していく覚悟がもっと必要なのではないか、と現代の寺院、そして僧侶自身が抱える問題点に端的に言及していました。

◆セッション2「社会とつながる寺院の可能性」

 第2部は、大河内秀人氏(小松川市民ファーム代表・浄土宗寿光院住職)佐藤朝代氏(NPO法人けやの森自然塾代表)袴田俊英氏(こころといのちを考える会代表・曹洞宗月宗寺住職)により活動報告が行われました。3氏はそれぞれが僧侶・寺族という立場にあり、実際に地域社会において公益性の高い活動を行っています。

 はじめに報告を行った大河内氏は、東京都江戸川区内の寺院の住職を務めるかたわら、寺の別院としてビルの一室を確保、地域のNGOが集う「小松川市民ファーム」として開放しています。

 同時に国際支援、人権問題、「チャイルドライン」に代表される子どものこころの居場所作り、そして環境問題にも積極的に取り組み、自房の屋根にも太陽光発電のパネルを取り付け、地域で行う環境問題啓発のモデルケース作りに取り組んでいるそうです。

 大河内氏は、「さまざまな価値観がありますが、本当の意味での資産とは、お金や物だけではなく、未来に開かれている私たちみんなの生活を豊かにしていくものを指します」と語りました。そして、「人と人とのつながりこそがさまざまな問題を解決し、みんなを幸せにする大きな基盤です。寺院は「場」を提供し、地域の人びとの幸せを築く大いなる可能性を持っているのではないでしょうか」と述べました。

 次に、埼玉県狭山市にある「けやの森学園幼稚舎・保育園」の園長であり、NPO「けやの森自然塾」の理事長を務める佐藤氏が活動報告を行いました。佐藤氏は約30年前、僧侶の夫とともに無認可幼稚園を設立、以来、子どもたちに自然の持つ素朴さや美しさ、偉大さ、不思議さを、五感を通して知ることができるよう、自然体験を重視した幼児教育を行っています。

 また、卒園児や父兄から「もっと自然とふれあいたい、遊ばせたい」との声が上がったのをきっかけに、後にNPO法人化する「けやの森自然塾」を平成4年に立ち上げました。ここでは週末を中心に、川でのキャンプや登山、坐禅をしてお坊さんのお話を聴く小坊主修行体験など、生きる力を育むための自然体験をヴァリエーション豊かなプログラムを通じて行っています。佐藤氏は、自然の中で生き生きと活動する子どもたちの写真をたくさん紹介しながら、「いのちの大切さや、生きているという実感をもたせることこそ、生きる力につながるのではないでしょうか」と提言していました。

 最後に、秋田県藤里町で、特に目立つ高齢者の自殺に対処するため、平成12年に「心といのちを考える会」を発足させ、自殺防止の問題に取り組んでいる袴田氏が報告を行いました。袴田氏は日本一自殺者の多い秋田県、そしてその中でもとりわけ自殺率の高い藤里町の状況について語り、その原因のひとつとして、農村において、かつて農作業の共同作業を核にして存在していた人間同士のつながりが作業の機械化によって薄れてしまったことを挙げました。

 そして、誰もが立ち寄ることができ、語らいの場となりうる居場所を提供しようと、コーヒーサロン「よってたもれ」を開店。また、自殺防止のパンフレットを会で作成し、町のお年寄りに配布したとも語りました。

 さらに袴田氏は、「現代の効率主義の社会では快適さばかりを求め、悩み、苦しみ、悲しむという、人間誰しもが抱く感情に見て見ぬふりをしてしまいがちです。仏教を通じて考えると、誰にでも苦しみはあり、それを乗り越えていくところに人間の成長があります。自殺の問題は現代を象徴する苦しみですが、そのことと向き合って、私自身あらためて仏教について考えさせられました」と締めくくりました。

◆いま寺院と僧侶がなすべきこと

 その後のディスカッションでは、はじめにコメンテーターの小谷みどり客員研究員が、「現代の仏教は葬式仏教であるなどと言われるが、それどころか僧侶を呼ばないで行う葬儀のケースが増加している」と語り、現代の葬儀事情や寺院の抱える問題について概説しました。

 活発な議論が進められた後に、コーディネーターを務めた神は、第2部においては「都市・都市郊外・農村という、異なる地域における寺院の公益的活動を具体的に紹介したかった」と語り、「現代の寺院はとかく、寺族と檀家という狭い関係のなかでひきこもっているようにも見えます。元来、寺院は地域に深く根付いてきた歴史を有しており、もっと自分たちが存在する地域社会に目を向けるべきでしょう。そして地域社会のニーズを見据え、同時に自分自身の僧侶としての可能性、また指向性を知ることが大切です。寺院と地域社会双方が幸せになれる方法を模索することが、仏教精神に根ざした、公益性の高い寺院への第一歩となるのではないでしょうか」と結びました。

 寺院はいま全国に約7万5千存在し、そのいずれもまったく異なった事情と地域性を抱えています。大切な家族、友人、地域の人びと、そして自分を含むすべての人間を幸せにすることが宗教の目的だとすれば、今回のシンポジウムが、まさに「臨床」として宗教界、仏教界、そして寺院の公益的活動の手がかり足がかりになればと願ってやみません。

日時 2008年3月7日(金) 13:30開会 17:30閉会
(13:00~受付開始)
会場 東京グランドホテル
(都営地下鉄 三田線芝公園駅〈A-1〉出口徒歩2分)
参加費 無料
内容 研究所活動プレゼンテーション&寺院意識調査報告〈13:30~〉
設立主旨:斎藤昭俊/研究所所長
プレゼンテーション:神 仁/上席研究員
寺院意識調査報告:石上和敬/客員研究員

セッション1「公益性とは何か?――いま問われる寺院の公益性」
[発題&ディスカッション]〈14:00~15:30〉
パネリスト:島薗進/東京大学教授 長谷川正浩/全日仏顧問弁護士 世古一穂/金沢大学大学院教授 
コーディネーター:鈴木晋怜/上席研究員

セッション2「社会とつながる寺院の可能性」
[活動報告&ディスカッション]〈15:45~17:30〉
パネリスト:大河内秀人/江戸川市民ファーム代表 佐藤朝代/NPO法人けやの森自然塾代表 
袴田俊英/こころといのちを考える会代表
コメンテイター:小谷みどり/客員研究員 コーディネーター:神 仁

総合司会:磯山正邦
定員 150名
主催 臨床仏教研究所/(財)全国青少年教化協議会
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