仏教者の活動紹介

つながる・ひろがる・アジアのねがい ―曹洞宗大船観音寺内 ゆめ観音実行委員会―

(ぴっぱら2009年7-8月号掲載)

第33回正力賞受賞者の活動

古刹が並び立つ古都、鎌倉。東京からほど近いこともあり、年間2千万人もの観光客が訪れている。その鎌倉市の北部にある大船地区は、観光客の集中する地域からは少し離れた、住宅が立ち並ぶ落ち着いた町並みの街区である。

大船駅から外に目を向けると、白い観音様の横顔を仰ぎ見ることができる。駅から臨むその威容に、初めて訪れた人は一様に驚く。この観音様は、高さ約25メートルの白衣観音の胸像で、通称「大船観音」と呼ばれ、地元をはじめ多くの人に親しまれている。

観音像を擁するのは、曹洞宗・大船観音寺である。駅前から急坂の細い参道を登ると山門が姿をあらわす。参道の左右は背の高い木々に囲まれ、乗降客の多い駅前だというのに驚くほど静かな佇まいだ。

ここ大船観音寺では、アジアの人々のこころの拠り所をつくろうと、1999年より毎年、「ゆめ観音アジアフェスティバル」を開催している。平和祈願の法要と国際交流を柱としたこの催しは、会を重ねるたびに認知度もあがり、開始から10年を迎える現在では2000人近い来場者を迎えるようになった。

●「フェスティバル」開催のきっかけ

フェスティバルを主催する「ゆめ観音実行委員会」は、大船観音寺、そして、国際布教の推進を活動の柱とする曹洞宗の任意団体「SOTO禅インターナショナル」を中心に、地元の仏教会、学生、地域の協力者によって構成されている。はじめは大船観音寺が単独で主催していたが、より継続的な運営ができるようにと、第4回目の開催より実行委員会が正式に発足したという。一体、どのような経緯で第1回目の開催に至ったのだろうか。

「中国人の女性が、泣きながら相談に来たこともありました。片言の日本語しかわからないのに、家族のことなど、生活上のさまざまな困りごとを話しに来ました」と、フェスティバルの発案者でもある大船観音寺の監寺、松山典生さんは語る。

大船観音に訪れる参拝者は年間約6万人ということだが、そのうち、3割もの人が在日アジアの人々だという。観音信仰は国や民族を越え、仏教国の多いアジア地域には共通に存在している。大船観音は、故郷を離れ、遠い異国で暮らす人たちのこころの拠り所となっているのだ。

そして観音像の胎内の一角には、「観音様への伝言状」と書かれた一冊のノートが置かれている。ここには、訪れた参拝客の願い、祈り、感謝の言葉などがびっしりと記されており、外国語の書き込みも少なくない。

ある日、それを外国人の知り合いに訳してもらった松山さんは、「経済的に苦しい」「愛情が欲しい」など、救いを求める外国人たちのたくさんの言葉を知ることになった。彼ら彼女らの孤独感を癒し、なんとか元気づけることはできないものかと考えたことが、「ゆめ観音アジアフェスティバル」開催のきっかけだったという。

●大船観音ならではの催しを

フェスティバルでは、アジアや世界各国からの民族舞踊や音楽が披露され、料理のブースなども出店される一方、平和を祈念する「散華荘厳」や「万灯供養法要」が、曹洞宗のみならず各国・各地域・各宗派の僧侶たちによって営まれている。また、電話相談事業を行っている超宗派の僧侶の会、「仏教情報センター」による相談ブースが設けられるなど、人々が気軽に僧侶の話を聞き、相談できる機会も設けられている。

観音像は、昭和4年に地元の有志が勧募を行い、観音思想の普及と世界の恒久平和を祈願して造立がはじまった。戦争のために建設途中で未完のまま放置されていたのを、戦後、当時の曹洞宗管長や寄進者が中心となって完成させたそうだ。

また境内には、原爆被災地の石や遺品が置かれるとともに慰霊碑が建てられ「神奈川県原爆被災者の会」管理による「原爆の残り火」も大切に守られている。平和を祈願し造立された観音像と、平和への祈りの火を擁した大船観音寺において、その意義を汲み、境内で平和祈願と国際交流の祭典が開催されることはたいへんに意義深い。

「このフェスティバルは、ここでしかできない、ここだからこその催しなのです」と、実行委員会の副委員長であり、SOTO禅インターナショナル事務局長の亀野哲也さんは語る。

「アジアをはじめ、各国の人々の交流を目的とした催しは、他にも全国で開催されていますが、ここでは宗教の要素を何よりも大切にしているところに特色があります」と、仏教の持つ普遍性や寛容性にも言及しながら説明してくれた。。

各国のスタイルを尊重しつつ、それぞれがこころを合わせて平和の祈りを捧げることは、互いの文化を尊重し、理解し合うという気持ちがあってはじめて実現できることなのだ。フェスティバルには、親子連れも多く訪れる。外国の文化にふれ、その祈りを肌で感じることは、子どもたちが異文化理解の入口に立つ貴重な経験となるのではないだろうか。

●「お寺が身近に感じられた」

実行委員会では他にも「キャンドルナイトin大船観音」という催しを行っている。「キャンドルナイト」とは、「でんきを消して、スローな夜を」を合言葉に、国内外で呼びかけられている環境キャンペーンだが、大船観音寺では被災地広島から持ち帰られ、大切に守られてきた境内の原爆の残り火を来場者で少しずつ灯し分け、環境保全とともに、世界の平和をともに考えようというコンセプトで開催を続けている。

精力的に活動する実行委員会だが、費用の問題も含め、円滑な組織運営はたゆまぬ努力の賜であるようだ。最近では少しずつ協賛する企業もあらわれ、さらなる活動の可能性も広がっている。活動開始から10年を迎える今の思いはどのようなものだろうか。

「大船観音は街のシンボルではありますが、地元の方々との具体的な繋がりは今まであまりなかったのです。さらに、駅前の立地とはいえ、お寺も観音像も山の上にあることから、お参りしやすい場所とは言い難いのです。しかし、催しを通じて境内は近隣の皆さんのなじみの場所となり、在日アジアの方をはじめ、大勢の方に喜んでいただいたことは何より嬉しいことです。来場者からも、ブログなどで『若手の僧侶が頑張っている姿が新鮮』『お寺が身近に感じられた』など、嬉しいお言葉をいただいています」と、松山さんは語る。

また、これらの催しには、500円程度の入場料を徴収しているが、その半分以上をアジア支援の義捐金として寄付しているそうだ。これまで、神奈川県知事と神奈川県国際交流協会から感謝状も贈呈されている。

●身の丈にあった活動を

第11回目となる今年の「ゆめ観音アジアフェスティバル」は、9月5日に開催される。

「フェスティバルは、ここで行う必然性があったからこそ支持され、続けることができました。お寺の特長を生かしたまま背伸びをせず、身の丈に合う形で継続させたいです」と、亀野さんは今後の抱負を語ってくれた。この言葉は、こうした活動を行いたいと考える寺院関係者にも大いに参考になるところではないだろうか。

大船観音寺ではさらに、境内を開放して子どもたちに楽しい一日を過ごしてもらおうと、子どもたちのための縁日「御子()まつり」を現在、計画中だという。「子どもたちが『場』から得るものは、想像以上に大きい。お寺が世代間、また国や地域を結ぶ仲立ちとなり、子どもたちに有形無形の贈り物ができれば」というお二人の言葉が印象的だった。(吉)

「幼児と高齢者がふれあう場作り」 ―デイサービスセンター井出― 人の力を重ねて――名刹の復興にかける