仏教者の活動紹介

苦しみに学ぶ ―浄土宗 寿光院―

(ぴっぱら2001年10月号掲載)

市民団体のたまり場として

レンガ作りのチベット寺院――寿光院を初めて訪れた人は、おそらくそのような印象を抱くに違いない。あるいはそれが寺とは気づかずに素通りしてしまう人もいるかもしれない。かすかに見える建物の屋根には、発電用の太陽光パネルが取り付けられ、入り口の脇に「市民立江戸川第一発電所」という標識が立っている。寿光院と足温ネットという環境系の市民団体(NPO)が協働して、この発電所を運営している。
寿光院を場として活動を展開しているNPOは足温ネットの他に10以上もある。「江戸川たすけあいワーカーズ・もも」、「荒川クリーンエイド」、「市民外交センター」、「江戸川生活者ネット」など、活動分野の異なるさまざまな団体が、行政ではカバーできない細かな公共的活動を行っている。
その内、「荒川クリーンエイド」は、現在子どもたちに対する環境教育に力を入れており、都市を流れる荒川の環境美化運動を通じて、子どもたちの情操を育んでいる。また、「江戸川たすけあいワーカーズ・もも」は、核家族化が進み孤立する若い母親を支援するために、育児支援サービスを行っている。介護サービスと並んで、会の主要な事業になっているようだ。

「苦集滅道」を生きる 

寺が市民活動に関わる意味について、住職の大河内秀人さんは次のように語る。
「地域に根ざしたさまざまなNPOと関わることによって、いま何が社会の問題になっているのかが良く分かってきます。それは、寺という隔離された環境の中では、なかなか見えづらいことなんですよ。お釈迦さんが説いた「苦・集・滅・道(=四諦)」という真理の「苦」を現場で感じることによって、仏教者として自分がいま何をすべきかが浮かび上がってくるんです。
いまは地域社会が人に対するケアーの力を失っています。そこには人間関係が分断されている「苦しみ」があるんですね。一人暮しのお年寄りや、育児で悩む若い母親の受け皿を誰かが作っていかないといけない時代なんですよ」
「苦」から出発する物事の見方は、確かに仏教本来の世界観であり、物質的に恵まれた現代人が最も忘れている点であろう。「四諦」という真理に基づくならば、「苦」を物質的・感覚的な「楽」によってごまかしても根本的な解決にはならない。
「苦」に対して深い認識を持ち、それを「道」によって超えていくことによって、真実の安らぎの世界へいたることができる。大河内さんは、地域社会の「苦しみ」に一つずつフォーカスを当て、市民活動という「道」を通じて、地域の人を安らぎへ導く菩薩行を行っているように見える。
「いまの仏教は形が優先され、仏教のための仏教になっています。しかし本来は、人のための仏教であるべきです。人が縁起の世界を感じ感謝をもって社会で生きていけるような人作りをする場が寺ではないでしょうか。そのためには仏教の形を現代社会にあったものに変えていく必要があります」と、大河内さんは語る。その言葉の中には、形骸化して時代の要請に応えることができなくなった仏教は、やがて滅びていくのだという意味が込められているのだろう。
チャイルドラインや時間外保育など、さまざまな活動を大河内さんは今後も進めていくようだ。現代社会の中で、人のための仏教を追い求めるその姿に心からエールと拍手を送りたい。(神)

(ぴっぱら2001年10月号掲載)
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