仏教者の活動紹介

あそぶ・まなぶ・まじわる ―けやの森自然塾―

(ぴっぱら2001年9月号掲載)

求められる自然体験

埼玉県狭山市――全国有数のお茶どころである狭山に、20年以上前から自然体験を中心に教育を行っている「けやの森学園」という幼稚園がある。春はさつまいもの植付けや花の栽培、夏は川遊びや山登り、秋は自然ハイクやいも掘り、冬はスノーキャンプなど、一年を通してさまざまな自然体験型のプログラムを実践してきた。
「けやの森自然塾」は、「卒園後も自然体験活動の場を......」という、「けやの森学園」を卒園した子どもの父母らの思いに応えて、平成四年に設立された寺子屋である。代表の佐藤朝代さんは、幼稚園の副園長も兼ね、さらにはお寺の切り盛りと一人三役の大活躍だ。「卒園生だけではなく地域社会に自然体験の面白さと大切さを伝えたい」という願いが実り、会員数はおよそ100名にまで増え、一昨年にはNPO法人格を取得した。

自然塾の活動のキーワードは、「あそぶ・まなぶ・まじわる」の三つ。子どもたちは四季折々の身近な自然の中であそび、時には冒険活動をすることによって、日常生活では味わうことのできない不自由さを体感する。その中で、生まれ持った感性がしだいに磨かれ、仲間とまじわりながら互いに助け合うことの大切さを学んでいく。
「豊かな経験があれば、子どもだけでも困難を乗り越えるためにどうしたらいいか決定できるようになります。保育者は、大きな間違いがないよう補佐をするだけです」と佐藤さんは語る。その言葉から、教育というものは大人が子どもに知識をおしつけることではなく、子どもたち自らが実体験を通じて生きる智慧を獲得していくことだ、とのメッセージがうかがえる。

新たな教育のプロトタイプ

自然塾の子どもたちは、月に一度、林や川など身近な自然の中で遊び、春休みや夏休みになると海や山での冒険キャンプに参加する。春の「スノーキャンプ」では、エスキモーの家を模したイーグル作りや、クロスカントリー、チュービングといった「遊び・体験」活動のほか、かんじき作りやアイスクリーム・バター作りなど「生活」に直接つながるプログラムも設けられている。また夏には、新潟から佐渡まで8時間かけて大海原を横断する「佐渡カヌーキャンプ」や、幼稚園児も参加する「富士登山キャンプ」などを行っている。
自然塾のパンフレットの冒頭に、こんな言葉が書かれている。「机上の教育、テレビゲーム、学力偏重社会・・その中で子どもたちは多くのものを失いつつあります。友達との協調性、素直な感受性、豊かな想像力といったものは、現代教育システムの中ではなかなか得られません。それらを子どもたちに自然の中で学んでいってもらいたい――」。
佐藤さんら自然塾のスタッフばかりでなく、多くの大人が同様の思いを抱いている。それは、文部科学省が進めようとしている教育改革で、自然体験の必要性が盛んに議論されていることからも明らかだ。しかし、一般的にはその具体的な形が茫洋として見えてこない。「けやの森自然塾」は、社会に対してそのプロトタイプ(原型)の一つを提示しているように思われる。(神)

(ぴっぱら2001年9月号掲載)
※けやの森自然塾 http://npo-shizenjuku.tv/
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