教育セミナー

2002.11.30

第6回「引きこもりからの旅立ち」

現在100万人いるともいわれる引きこもり。学校にも仕事にも行かず、自宅に閉じこもる若者たち。家族にとっても長く厳しい問題である。世間体を気にする親が、誰にも相談できず孤立するケースも少なくない。そこで今回は「引きこもりからの旅立ち」と題し、全国引きこもりKHJ親の会代表の奥山雅久氏を講師に迎え、質疑応答を交えながら3時間にわたってお話しいただいた。

長期化する引きこもり

奥山雅久さん 奥山氏は、自身も引きこもりの長男を持つ親の一人。息子の暴力が激しくなり、会社を辞め、家も出て親の会の代表として活動している。次世代の崩壊を懸念し、社会的理解と共感を得るべく社会や行政に陳情を繰り返すかたわら、会の運営に携わっている。また骨肉腫のため左足を切断、がんも発病しているが、文字通り命を削って全国を駆け巡っている。

奥山氏は冒頭で「25~30歳の人が引きこもり人口の約33%を占める」と独自のデータを紹介して、引きこもりの高年齢化と長期化を指摘した。そして引きこもりが生まれる社会背景として「戦後にはあった支えあいの社会から、高度経済成長に伴うモノ・カネの氾濫が中流社会意識を生み出し、『私独りでも生きていける』という考えを誰もが持つようになった」と話し、モノ・カネに価値観を置く戦後の日本の精神構造を批判した。

また、出る釘は打たれるなどのことわざを引用し、自分の意見を言えず、本心を語れない社会・世間体が第一基準である特殊な日本社会について「異質なものを受け入れない日本の管理教育のひずみが象徴的に現れている」と分析し、多様な価値観を認める社会へのシフトを期待していると語った。

共依存という地獄

引きこもる若者については、「純粋でシャイ。プライドが高いことが多く、人付き合いが苦手なだけ。誰にでもなりうる」と話し、「百人百様だが、共通して言えるのは不信感。いじめや裏切りで対人不信、対人恐怖が生まれ、心の傷を負う」と話した。

家族については「情報が少ないままに対応が遅れ、引きこもりと気が付いたときには深みにはまっている。引きこもる本人もこのままではいけないと思っているのに、親はそれがわからず『学校に行かないでどうする』『仕事をして一人前』と言ってしまう。本人は苦しみが深まり、親なのにわかってくれないと不信が募り、親を恨む。親も、『自分が死んだら......』などと、将来のことを先回りして悲観する。しかし、本人は親にすがらざるを得ず、親も子が心配で離れられない」と、親と子の悪循環な共依存関係を指摘し、アリ地獄に落ちていく状況を示した。

できることから

では引きこもりにどう向き合っていくのか。「慌てずできるところからで良い」と話す奥山氏。理想を追わず、現実を認め、世間と比較しない。『これも人生』と腹をくくろう」と呼びかける。さらに「人間は守ろうとすると追い込まれる。いろんな生き方があって良いのでは」と話し、親の会で苦しみを吐き出し、気持ちを楽にすることが第一歩であると引きこもりに悩む参加者らへ言葉をかけた。

最後に、自力での引きこもりから脱出した例が少ないことをあげ「第三者の介入が必要」と訴える奥山氏に対し、質疑応答の場で「どのように第三者が関わっていけるのか」という問いがあった。氏は「ただ寄り添うだけでもずいぶん違うのでは」と語り、地域社会や第三者が支えていくような社会を目指し、今後も訴えていきたいと力を込めた。

38家族で発足したKHJ親の会は、現在では全国に31支部(2001年現在)。2008年1月現在、43支部を持つまでに発展。引きこもりがいかに深刻な問題かを物語っている。

このような状況の中、全青協では全国に7万ある寺院を場に、若者たちの居場所作りを提案し、支援していく「寺子屋NPOプログラム」を推進している。また、不登校や引きこもりの青少年を受け入れている各寺院とのネットワークの構築や、相談窓口の設置も計画している。KHJ親の会とも引き続き連携をとり、仏教者がどのような手助けができるのかを模索していきたい。若者たちが、親が、社会が今それを求めているのである。(総)

※現在、全青協では、KHJ親の会等との協力で、全国不登校・ひきこもり支援寺院ネットワーク「てらネットEN」の活動を行っております。

第5回「家庭裁判所調査官から見た少年たち」 第7回「引きこもりからの旅立ち―Part2―」
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