「仏教者としての平和像」を考える集い

2003.03.26

第3回勉強会「宗教国アメリカとメディア」

講師:蓮見博昭氏(恵泉女学園大学教授)

米英軍によるイラク攻撃開始から1週間も経たない3月26日、『仏教者としての平和像を考える連続学習会』が、東京・築地本願寺伝道会館の一室で行われました。これは、9・11テロを契機に宗派を超えて集った青年僧侶による「平和を学び・考え・願う青年仏教者の集い」(略称:平仏集)が企画したものです。
第3回となる今回の講師は、恵泉女学園大学教授の蓮見博昭さん。通信社勤務の経歴もある氏は、自らもプロテスタント信者で、アメリカの政治と宗教の関わりに深い造詣をもたれています。蓮見さんにアメリカの宗教の現状とメディアの役割を語っていただきました。

「キリスト教国」アメリカ

アメリカはキリスト教国であると一般に考えられています。しかし、「『キリスト教国アメリカ』という表現は、一筋縄ではいきません」と蓮見氏は語り、アメリカの主な宗教人口の比率を紹介しました。

アメリカで、キリスト教徒であると言う人は国民の約80%。他は、ユダヤ教徒が2%、イスラム教徒が0.5%、仏教徒やヒンドゥー教徒が1%、「無宗教」「無選択」16%となっています。実質的なキリスト教国と言えますが、キリスト教にも多くの教派があり、その傾向が変わってきていると蓮見氏は語ります。

アメリカ国内のキリスト教は、カトリック(国民の22%)・プロテスタント(後述)・その他(いわゆるモルモン教など・3.5%)に大別することができます。プロテスタントはさらに、主流派(22%)と福音派(25%)に分けられます。主流派と呼ばれるのは長老派やメソジストなどで、考え方は進歩的だと言われています。一方の福音派は保守的で、キリスト教原理主義もここに含まれます。

なお、ブッシュ現大統領は、所属は主流派のメソジストですが、実際には原理主義的だと言われています。

保守化するアメリカ

「最近アメリカでは、原理主義を含めた福音派が主流派を越えて増えてきており、保守的になっています」と蓮見氏は分析します。また、「福音派が中心となって宗教的な基盤の政治・社会団体が組織され、政治的な活動を活発化している」とも語りました。これらの「宗教保守派」団体は、地方議会や教育委員会など身近な政治に関わり、宗教的な思想から政治を変えようとしているのです。

例えば、聖書は全て正しいと信じる原理主義者が、教育委員会に「進化論でなく『創世記』を理科の授業で教えるように」と主張したり、公教育では受けられない宗教教育を子どもに受けさせるため、私立に通わせる交通費を政府に支給するよう働きかけたりしています。

妊娠中絶や同性愛に関しても福音派は強く反発し、80年代から90年代にかけ、進歩派と激しく対立する「文化戦争」を繰り広げたのです。

保守化するメディア

宗教界が保守化しているのと同様、メディアも保守化の傾向が現れています。保守的なメディアは、福音派などの保守的な宗教思想を広めるのに一定の役割を果たしています。

世界的に有名なニュース専門局CNNに対抗する保守的なテレビ局がFOXニュースです。イラク攻撃開戦時の平均視聴率がCNNを上回ったとする報道も一部でされ、保守化の躍進を象徴しています。新聞では、『ワシントン・タイムズ』『ウォール・ストリート・ジャーナル』などが保守的なメディアとされています。

イラク攻撃とキリスト教界

蓮見氏は最後に、攻撃開始後間もないとあって参加者の多くが関心を寄せる「キリスト教徒の戦争観」を説明しました。キリスト教徒の間には、戦争について4つの考え方があると氏は言います。

1 平和主義 絶対的な平和主義を唱える。
2 正戦論 条件のかなった「正義の戦争」であればいいという考え方。ブッシュ元大統領(父)が湾岸戦争の際に唱えた。
3 聖戦論 十字軍主義ともいい、原理主義者中心の福音派が主に主張している。キリスト教徒を弾圧するなどの「この世の悪」は先制攻撃してでも殲滅するという。
4 二王国説 宗教は人の「魂」の救いのみを考えるものとし、「肉体」は戦争しても構わないとする。

いずれにせよ、主流派の各教派はそれぞれに反戦決議をしているところが多く、ブッシュ現大統領が所属するメソジストも反対しています。

それでもブッシュ大統領が攻撃を進めるのは、「教派の中でも指導者層と一般信者の間に意識の乖離があるため」と蓮見氏は説明しています。一つの教派の中でも、指導者層は反戦声明を決議するなど進歩的ですが、一般の信者は保守的な傾向が強く、戦争支持も多いというのです。「ブッシュ現大統領は、そういった一般信者や福音派の票が欲しいのでは」と蓮見氏は推測していました。

アメリカに限らず、世界的に宗教と政治の関係が変わりつつあるように思われます。「宗教と政治が関係あるはずない」と目を背ける前に、いま一度宗教の現状を見つめることも必要なのかもしれません。(内)

(ぴっぱら2003年5月号)

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