非行

子どものための少年法を!―少年非行と少年法改正

ぴっぱら2013年1-2月号掲載
弁護士 平湯真人

新聞やテレビなどでは、毎日のように大人の犯罪が報道され、子どもの非行の報道もしばしばです。「少年非行が低年齢化した」「悪質になった」と言われ、「少年法をもっと厳しく改正するべきだ」という発言が聞かれます。しかし、それは本当でしょうか。少年非行についてどう受け止めたらよいか、すこし考えてみたいと思います。

◆大人とは違う子どもへの裁判

「非行」というのは、大人の「犯罪」とほぼ同じです。また少年法は、少年非行について家庭裁判所がどのような裁判をするかを定めた法律です。

大人であれば、刑事裁判といって地方裁判所の公開の法廷で検察官から有罪であるということで厳しく追及され、弁護人が防御し、最後に裁判官が判決をします(なお最近は一般市民から選ばれる裁判員も判決に加わります)。判決で懲役刑になれば、刑務所で労働に従事することになります。

これに対して、子どもの非行事件についての家庭裁判所の裁判の内容や手続などは、大人の刑事裁判と大きくちがいますので、以下に説明したいと思います(なお少年法は2000年に重大な改正がありましたが、それまでの制定以来の少年法を、まず説明します)。

◆裁判の内容の特徴――原則は保護処分

保護処分というのは、刑務所での懲役と違い、少年院の中で子どもの非行や成育歴に応じた教育(矯正教育ともいいます)を受けたり、社会の中(親元や代わりの施設など)で保護司、保護観察官などの監督のもとで教育を受けたりするものです。また子ども本人に対する教育だけでなく、親の養育環境に問題がある場合には、「環境調整」と言って保護司が親の相談に乗ったりします。これらを「保護処分」と言って、大人の刑事処罰とははっきり区別されています。

なぜ、刑事処罰でなくて保護処分なのでしょうか。子どもは養育環境、教育環境からさまざまな影響を受けながら成長します。大人の役割はプラスの影響を与え、マイナスの影響を除くことです。

たとえば親の虐待の被害を受け続けた子どもは、自分自身を愛せず、自尊感情が育ちづらいものです。適切な人間関係が育たないまま軽率な行動をとり、重大な結果を生ずることもあるのです。少年院の入所者の5割に被虐待経験がある、という法務省の調査もあります。

結果だけをみて刑事処罰をあたえるだけでは、再非行も防げないでしょう。ていねいな教育的措置が不可欠なのです。

また、やむを得ず例外的に刑事処罰を選択するという場合には、家庭裁判所では事件を検察官に回して地方裁判所で判決をするのですが、判決の内容としても刑期に幅をもたせて(たとえば懲役3年ないし5年)、柔軟な措置ができるようにし、刑務所も特殊な刑務所(少年刑務所)に収容します。

◆裁判までの手続の特徴――審判(審問)手続

裁判までの手続きも、大人の刑事裁判の手続きとは大きくちがいます。まず裁判官が少年に向き合い、結論を告げる場所(大人なら法廷)は、一般の傍聴人のいない非公開の審判廷です。審判廷には、少年のサポーター(付添人)としての弁護士はいますが、少年を追及し告発する検察官は、2000年の少年法改正までは、いなかったのです。審判廷の主役は裁判官と少年であって、裁判官による人格的な働きかけが期待されています。

裁判の中味だけでなく、裁判の手続そのものにも、教育的意味があります。少年法には、審判廷での裁判官の職責として「懇切を旨とし、和やかに行う」と書いてあります。

これは決して、子どもを甘やかすことではありません。子どもが審判廷で緊張、萎縮せず、安心して自分の本当の気持を表現できなければ、大人(裁判官や付添人)とのコミュニケーションは成り立たず、大人の指導やアドバイスを受け入れることは難しいでしょう。審判廷を非公開としたり、検察官を入れないことにも重要な意味があったのです。

検察官は捜査の責任者として、警察の関係者の取り調べを指揮し、また直接取り調べをします。強い権力を持って追及する検察官の在席は、少年審判のあり方とは矛盾するからです(なお被害者の在席は別に検討が必要ですが、少年の緊張、萎縮は避けられません)。

◆健全育成を目指す「保護主義」

このような家庭裁判所の特徴、理念をまとめて「保護主義」といいます。子どもは成長の過程にあって社会(大人)が健全に育成する役目がある、非行に対しても家庭裁判所は処罰でなく、教育的福祉的観点から立ち直りのための措置(保護処分)をするべきだ、裁判の中味だけでなく、裁判の手続そのものも教育的意味を持たすべきだ、という考え方です。少年法では「少年の健全な育成を期して」と書かれているのも、同じ考えです。

このような考え方は、20世紀はじめのアメリカの少年裁判所での実践の中から生まれ、世界に広がりました。銃や薬物などの少年犯罪に悩んだアメリカでは厳罰主義に傾いていますが、厳罰は、必ずしも少年非行の抑止には有効でないことも指摘されています。

日本が保護主義の少年法を制定したのは、敗戦後の混乱の中で大人だけでなく少年の凶悪事件も多発(殺人事件だけで年に300件以上)していた時期でしたが、政府は「健全育成のために保護主義を基礎とする少年法が必要」と決断をしたのです。

しかしその後、大人は子どもの成長を見守る余裕を失ってきました。少年犯罪はその後増減を何回か繰り返しながら、全体として減ってきたにもかかわらず、2000年に重大な改正が行われたのです。裁判の内容として例外的に刑事処罰にできる年齢が、16歳以上から14歳以上に引き下げられました。また死亡事件(殺人や傷害致死)等については、一定の場合に検察官が審判廷に在席して発言し、結論に不服なら高等裁判所に不服申立することができるようになりました。

◆少年法の理念に叶う改正を!

そしてこのたび、またも重大な改正がなされようとしています。検察官の在席をほとんどの場合にできるようにするのと、刑事処罰にする場合の刑期の幅を、重い方に広げようというものです。

これらが国会で成立すると、保護主義の特徴、理念はますます失われ、子どもたちの立ち直りはますます困難になりかねません。なお今度の改正にあたっては、付添人を国の費用で付けることも盛り込まれるようです(今は全弁護士から集めた基金でまかなわれています)。

子どもにとってサポーターの必要性は当然であって、検察官が在席することのマイナスを解消する理由にはなりません。子どもの健全な成長発達を保障する、少年法の改正が望まれます。

※このたびの少年法「改正」に反対する弁護士・研究者有志の会では、ご賛同いただける方からの署名を集めています。ご賛同をいただける場合には、ご賛同者の「氏名、所属/肩書等、市区町村」をご記入の上、「少年法改正案に対する緊急意見書に賛同する」旨を明記してFAXまたはe-mailにてお送りください。所属/肩書等の公表を希望されない方は無記入で結構です。

○E-mail:shounenhouyuushinokai@gmail.com