対人関係・コミュニケーション

ケータイの向こうに誰がいる?―大人が知らない子どものネット事情ー

ぴっぱら2014年3-4月号掲載

◆無防備な若者たち

昨年、若者がコンビニエンスストアの冷凍庫に横たわったり、飲食店の厨房で食器洗浄機に入ったりした投稿がインターネット(ネット)上で出回り、騒ぎとなりました。若者が投稿した悪ふざけは、小売店や飲食店を閉店や倒産に追い込み、本人も退学処分を受けるなど、深刻な結果を引き起こしました。若者たちは、日常的にTwitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス=ネット上の交流を通じて社会的なネットワークを構築するサービス)を利用しており、軽い気持ちで投稿したに違いありません。ところが、彼らの行為は瞬く間に世界に拡散し、取り返しのつかない事態となったわけです。

また、別の事例では女子高校生がSNSで知り合った元交際相手からストーカー行為を受け、殺害されるという痛ましい事件が起こりました。その上、この女子生徒は交際相手から、交際中にやりとりしていた性的な画像や動画をネット上に公開されていたのです。ネット上に公開された写真や動画は、一度拡散すると完全に削除するのは不可能だと言われています。こうした行為は「リベンジポルノ」と呼ばれていますが、海外では10代の自殺者も出ており、世界的な問題となっています。

大人の目から見れば、写真を投稿したり、見られて困る写真を撮らせたりと「どうしてわざわざ危ないことするのか」と思うかもしれません。しかし、迷惑行為を投稿した若者が「こんな騒ぎになるとは思わなかった」と言うように、仲間内やカップルで楽しんでいるだけという感覚で、周囲に迷惑をかけることや、多くの人が目にするかもしれないという可能性を想像することは難しいようです。

生まれたときからネット環境が整い、ネット上の交流に抵抗感の少ない若者や子どもたち。しかし、その運用ルールや、画面の向こうに世界中の人の目があるということを学ぶ機会は、実はほとんどありません。子どもたちを守るために、子どもを取り巻くネット事情を、少しでも知っておきたいものです。

◆懸念されるネット依存

厚生労働省の昨年の調査では、携帯電話やパソコンに没頭する「ネット依存」の中高生が、全国で51万8千人におよぶことが推計されました。
一日(平日)のネットの平均利用時間は「5時間以上」が男子中学生で8.9%、女子中学生で9.2%、男子高校生で13.8%、女子高校生で15.2%だったそうです。また、「使用時間を減らしたり、やめようとしたりしたが、うまくいかなかったことが度々あったか?」「熱中しすぎていることを隠すため、家族や先生にうそをついたことがあるか?」などの質問事項のうち該当項目が多く、「病的な使用」とみなされた中高生は8.1%にも上りました。

1日5時間とは、授業時間や食事の時間などを除いても、かなりの長時間と言えるでしょう。勉強したり、家族と会話したりする時間はほとんど取れていないのではないでしょうか。
長時間ネットを利用する子どもがいる背景には、肌身離さず持ち運べてネットが使えるスマートフォン(スマホ)の普及があると考えられています。

昨年公表された、東京都内の中高生を対象とした警視庁の調査では、スマホの保有率は高校生が74%、中学生は42%だったそうです。全国調査の数字ではありませんが、子どもたちにもスマホがかなり普及しているのがわかります。

◆スマホ時代のフィルタリング

スマホは、携帯電話といってもパソコンに近い端末で、ネットの使い勝手がよいように作られています。ゲーム、音楽プレーヤー、画像編集など、好みに応じてあらゆる内容を楽しむことができる、「アプリ」(アプリケーションソフト)と呼ばれるソフトがたくさん用意されているのです。

まさに万能端末のスマホですが、子どもが利用する際にはアダルトサイトや出会い系サイトなど、悪影響を及ぼすサイトを防御しておきたいものです。従来であれば、家庭や学校のパソコン、携帯電話には「フィルタリング」という機能を施して有害情報にアクセスできないようにするだけで安全でした。ところが、スマホの端末は携帯電話会社の回線だけではなく、駅やコンビニ、ファストフード店などで無料で利用できるネット回線でも接続が可能なため、有害な情報をすべてブロックすることが難しくなっています。また、アプリによっては直接ネットに接続できてしまうものもあり、その場合も防御が難しいのです。

そこで、今ではサイトへのアクセスをブロックするものと、アプリそのものをブロックするものというように、二重、三重のフィルタリングが必要となっています。詳しくは携帯電話会社に相談すれば教えてもらえますので、心配な方は足を運んでみてください。

◆ゲーム機も危ない

「うちの子は小さいから」「スマホは買わないから」というご家庭も、安心はできません。ネットに接続できる機器は、実はパソコンやスマホに限らないのです。子どもたちが持っている携帯用ゲーム機、また携帯音楽プレーヤーも、そのほとんどでネット接続ができ、そのまま与えると有害なサイトを目にする可能性があります。

さらに、一部の携帯用ゲーム機には、知らない人とやりとりができる「すれ違い通信機能」が備わっています。機能を設定したゲーム機を持っているだけで、ショッピングモールなど街中のいたるところで、同じゲーム端末を持っている人が近くにいることが通知され、アイテムを交換したり簡単なメッセージを交わすことができます。好奇心の旺盛な子どもがこうした機能を喜ぶのは言うまでもありませんが、一方で、不審者が子どもに近づく手段としても不思議はありません。

実際に、子どもから住所や家族構成などを聞き出して、強盗や誘拐といった事件も発生していますし、「下半身の写真を送ってくれたら、アイドルと話をさせてあげる」と女子児童にもちかけ、写真を送らせていたという事件もあります。またゲーム機についているカメラ機能を使って、複数の小学生が一人を裸にして動画や写真を撮り、友人に送信するなどのいじめも起こっています。

その機能が子どもにとって早すぎると感じたならば、ゲーム機などの端末にも適切なフィルタリングを施すことが大切でしょう。また、「子どもだけのときに知らない人とやりとりしない」「悪いことには使わない」など、最低限のルールやモラルを子どもに教えることが求められます。

◆無料通話アプリによるトラブル

また、新たに子どもたちのトラブルの温床となっているのが、爆発的な普及を見せている「Line(ライン)」などの、無料通話アプリです。これらは無料でメッセージの交換や通話ができるサービスで、たとえばラインは、スマホをはじめ、パソコンやタブレット式端末、スマホではない携帯電話でも使うことができます。

ラインは実際の会話のように、メッセージをテンポよくやりとりすることができ、表情豊かな「スタンプ」と呼ばれるキャラクターをメッセージに織り交ぜることができます。またグループを作り、グループのメンバーに一斉送信できるのも魅力です。特徴的なのは、メッセージを読むと相手の画面に「既読」と表示され、そのメッセージを相手が読んだかどうかが分かる仕組みです。

手軽な交流ツールとして人気のラインですが、これがきっかけとなって事件も発生しています。昨年、16歳の少女が仲間と共に同級生の少女をリンチして殺害した事件は、ライン上の口論が引き金となりました。
ラインの魅力はそのスピード感にあります。ライン自体は決して悪いものではありませんが、先の事件では、反射的なやり取りの中、言葉だけがエスカレートしていったのかもしれません。

大人には理解しがたいですが、子どもの世界ではすぐに返事を返すのが友情の証とされています。ふつうの携帯メールでも、3分以内に返事をするという「3分ルール」は当たり前でしたが、「既読」が相手に知られてしまうラインでは、極端に言えば秒単位での返信が求められてしまうのです。

返事を怠ると「無視された」「大事にされていない」ということになります。疲れて嫌になっても、ラインがクラスの連絡網のようになっていたりもするので、止めるわけにもいきません。スマホを布団の中まで持ち込んで必死に返事をする子もいますが、それだけ頑張っていても、ラインのグループから無視された、悪口を言われたなど、トラブルはしばしば起こります。

大人であれば多少返事が遅れていても、忙しいのだろうと相手を慮ることができますが、子どもたちにとっては難しいようです。しかし、そうした対人的な距離感を教えてくれる場はほとんどありません。親もまあ大丈夫だろうと思っていたり、何と教えてよいのかわからないというのが本音ではないでしょうか。

ネット経由のいじめは、これまではブログ上だったりネット掲示板の「学校裏サイト」だったりと、第三者の目に触れやすく、比較的対応がしやすいものでした。しかし、ラインなどのやりとりは携帯電話のメールと同様、電気通信事業法で定められる「通信の秘密」に守られ、運営会社であっても書き込みを無断で閲覧したり削除したりといったことはできません。発見や介入が難しいのが、こうした無料通話アプリを使ったいじめなのです。

◆人としての大切なことを

ネットは今や社会的インフラとして生活の隅々に浸透しています。そこで必要なのは、ネットや情報端末との適切な付き合い方を大人が子どもと一緒に考え、示していくことではないでしょうか。ポイントと思われることを掲げておきます。

  • 子どもの能力発達を見きわめよう《モラル・コミュニケーション能力と、情報技術に関する知識やスキルをそれぞれ身につけるようにしましょう》
  • 困ったときに相談できる相手となろう《子どもが一人で悩みを抱え込まないように日ごろから会話を心がけましょう》
  • ネット利用環境を整備しよう《子どもの発達段階にふさわしい機器や利用場所、利用機能の選定を行い、フィルタリングなどを活用しましょう》
  • 単なる禁止や取り上げはやめよう《子どもがどんなサービスを使いたいのか話を聞いてみましょう》
  • 放置したり、諦めたりしないこと《買い与えてしまった後だからと諦めず、必要なルールや注意すべき点を子どもと一緒に考えていきましょう》
  • まずは子ども自身に考えさせよう《家庭のルールを決め、そのルールが保護者の懸念への対策となっているか親子で一緒に確認しましょう》
  • 友人や同級生の保護者と情報交換しよう《子どもが日ごろよくやり取りする友人の保護者と連携しましょう》

親が子どもだったころには想像もできない世界を、今の子どもたちは生きています。だからこそ、ネットでのトラブルに親が早期に気づくことが難しいのです。トラブルの多くは人間関係に起因するものですが、基礎的なコミュニケーション能力を体得する前に、ネットがコミュニケーションの中心舞台となってしまうことが問題なのでしょう。

道具が変わっても、人として子どもに教えていかなくてはならないことは変わりません。人を傷つけないようにしよう、節度をもって自分を律しようと、普段から子どもに教えましょう。子どもたちを守れるのは大人なのです。(Y)

参考:
子どもたちのインターネット利用について考える研究会編
「保護者のためのインターネットセーフティガイド」