子どもの声に耳を傾けよう

2年目のえどがわチャイルドライン

江崎 智美(えどがわチャイルドライン)

こどもたちと一緒に成長すること

わたしたちえどがわチャイルドラインは2003年5月で2周年を迎えました。去年初めて「こどもの日全国一斉キャンペーン」に参加してからあっという間の1年間でした。

このキャンペーンとは、日本全国のチャイルドラインが通常のダイヤルに加え、フリーダイヤルでもつながるもので、18歳までのこどもは誰でも、好きな時に話すことが出来ます。そのキャンペーンではとても多くのこどもたちの声が寄せられました。「こどもたちが自分のことを自由に話せ、相談したりできる場」、「おしつけもなく、秘密を守ってくれる安心した小さな場」。そんなこどものひとつの居場所が、わたしたちの地域に常にあることの必要性を、皆感じました。

そして2002年、9月より「毎月5日はこどもの日」として、午後4時から11時までこどものための電話を常設化しました。

この一年の私たちの大きな一歩です。

今年の5月5日

去年のイベント的なにぎやかさとは違い、今年は落ち着いた雰囲気の中で行われました。開設時間は5日の午前0時から24時間で、午後2時から9時まではフリーダイヤルにも参加しました。回線は2つで、受け手15名、支え手6名、事務局3名が、数時間のシフトを交代しました。

実際電話が鳴り出したのは午前9時からで、ピークは2時から8時でした。無言29件を含め、総着信数は100件でした。内容は、学校のこと、友達のこと、家族のこと、異性や自分自身のことなどで、多岐にわたった内容が話されました。

電話のかからない時間に思ったこと

5日の午前0時から9時までは見事に電話はゼロでした。

本当にカードがこどもたちに届いているのだろうか、と心配したり、この時間に電話がないのは安心することなのだ、と考えたりもしました。しかし、いつかかってきてもOKな状態で待機していた私たちにとっては、少し拍子抜けする気持ちも確かにありました。しかしこの時間は決して無駄だったとは思いませんでした。

ある受け手さんが「電話の前にずっと座っていて、以前かけてきた子のことを待っている自分に気づきました。ふっきれたつもりでいたのに」と言ったときに、私はこういうことがとても大切なのではないか、と思ったのです。

内容の重いものや気になることは家に持ち帰らないよう、他言しないよう、支え手や仲間と振り返りをし、心の整理をします。しかし電話という媒体は受話器を通して直接こちらの感情を刺激しますし、顔が見えない分、勝手な想像もしてしまいがちです。

しかし、どうしても忘れられない見えない相手にたいする「思い」、解決できない理不尽な現実にたいする「思い」は、普遍性をもった問題としてひとりの人間を成長させる可能性があるのではないか。そのような目に見えない「思い」に出会えることもチャイルドラインというボランティァの良さなのかもしれないと考えました。

私たちおとなのありかた(今後も続けていくために)

電話をしてくるのは18歳までのこども。電話を受けるのは20歳以上のおとなです。

電話をしてくる子は「教えてくれる所」、「悩みを相談して解決してくれる機関」と思い込んでいることが多く、対応する方も「教えてあげる良い大人」や「諭してあげたいエゴ」に知らずのうちに染まってしまいがちです。構図が上下関係になりやすいのはある程度仕方ないかもしれませんが、そこに気づき、離れる努力をすることがチャイルドラインに関わる者にとって必要だと思います。

そのためには、まずこどもからの声を聴き、受け止めることと、自分の心の中の声を聴くことを同時進行させます。こどもからの問いかけは、忘れていた大切なものを呼び起こすことがあります。そこには上下関係はありません。

また、わたしたちおとなは子ども時代にもどることはできませんが、かつて子どもだった時の自分の気持ちを手繰り寄せ、思い起こしていく作業が必要でしょう。思い出したくないつらいことは、思い出したくない自分がいる、ということだけでもいいかもしれません。

このような二つの過程を通じてわたしたちは「気づき」を深め、実際の年齢とは無関係に豊かに「成長」してゆくのでしょう。その「成長」(たましいの成長)にはおわりが無い、と信じています。チャイルドラインにかかわっている時間は生活の一部かもしれませんが、全てはつながっています。日常どんな風に過ごしてゆくのか、今後のおとなとしてのわたしたちのありかたは、それぞれが課題にしてゆくべきことでしょう。

組織として発展すること

このえどがわチャイルドラインの特徴のひとつは、よい人材が揃っていることだと自負しています。社会の黒子的な存在であるチャイルドラインの活動のもとで、様々な個性を持った人たちが集まっているのはとてもおもしろいことです。その個人の持ち味をいかしてゆける運営ができたらいいと考えています。

もう一つの特徴は地域力のある江戸川で活動している、ということです。エネルギーのあるユニークな大小の団体が、区内に数多く点在しています。今後はもっとそれぞれの分野を提供しあってネットワークをひろげてゆきたいと思っています。

このような特徴のなかにいるえどがわチャイルドラインが人々の意識の中で存在感のある団体に成長してゆくために、人材育成、地域のネットワークづくりの強化が望まれます。そして運営能力を高めたきちんとした組織体制づくりも必要でしょう。今年度も豊かに、かつ、しっかりとした確かな一歩を歩みたいと思います。

(「ぴっぱら」2003年6月号掲載)