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発達障がい
発達障がい?それとも個性?―「グレーゾーン」の子どもたち―
ぴっぱら2013年5-6月号掲載
◆「ちょっと気になる」子どもたち
4月に新入学や新学期を迎え、子どもたちは新しい環境の中で生活をスタートさせています。お友だちと仲良くできるかしら?勉強についていけるかしら?と、心配されている親御さんも多いことでしょう。わが子についての心配はつきませんが、最近、小学校あるいは幼稚園や保育園のクラスに「ちょっと気になる子ども」が増えているという声を、時折耳にします。
「落ち着きがない」「先生の話を聞いていられない」「話がうまくかみあわない」「一人遊びが多く団体行動が苦手」「片付けられない」「パニックになりやすい」など......、そんな感じの子は、昔からクラスにいたような気もしますが、皆さんはいかがでしょうか?
平成24年に文部科学省が実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」によれば、知的な発達に遅れはないものの、学習面か行動面で何らかの困難を持つ児童や生徒は、調査対象全体の6.5%いることが明らかになりました。これは40人学級では、1クラスあたり2〜3人の割合になります。ただし、これは医師の診断ではなく、教員の主観に基づく調査です。
過去の調査とは少しずつ条件が違うので、減った、増えたという単純な比較はできませんが、平成16年に公布された「発達障害者支援法」にて、児童の発達障がいの早期発見と支援が求められたことで、こうした特性をもつ子どもへ注目が集まっています。支援が必要なのか、それとも個性なのか、発達障がいの「グレーゾーン」の子どもについて考えていきましょう。
◆怖いのは二次的な被害
ここで取り上げる「グレーゾーン」の子どもとは、知的な遅れがないか、あってもごく軽度のもので、社会的、対人的、学力的、そして行動の適応に何らかのつまずきが見られる子どもを指します。家庭や集団生活の中では、先ほど挙げたような「ちょっと変わっている」特徴を示すことも多いものです。
たとえば、落ち着きがない状態の子どもは、小さい頃から家族に怒られ、学校に行ってもいつも注意されて、本人の自己肯定感は失われるばかり......といった状況になりがちです。また、周囲の人の気持ちを理解するのが難しい子どもの場合には、誤解やいじめを受けやすく、果てには不登校やひきこもりとなる可能性まで出てきます。
勉強がよくできる子どもの場合には「グレーゾーン」だと気づかれないまま大人になり、社会に出て人間関係や仕事上のトラブルを抱えてつまずき、はじめて発覚するというケースもあります。適切な対応がなされなければ、大人になってからも、ひきこもりやうつ病のリスクが高まってしまうのです。
「グレーゾーン」の子どもに懸念されるのは、こうした二次的被害です。日常生活に支障がなければそれは個性であり、問題となりませんが、その特性が周囲との軋轢を生んだり、本人の単なる努力不足と見なされ、他人からの評価も自己評価も著しく下がる状態が続いたりすると、こころの健康を害する原因となります。
「障がい」という言葉のイメージばかりが先行する現状で、極端な誤解を防ぐためにも、また人知れず悩んだり苦しんだりする子どもを減らすためにも、まずは発達障がいそのものについても知っておきたいものです。
発達障がいとは、先天的な要因により脳の発達に偏りが生じる、脳機能の障がいのことです。かつて言われていたような、家庭内でのしつけ不足や本人の努力不足とは一線を画すものです。主な種類や特徴は次のようなものです。
●広汎性発達障がい
言葉や認識の発達に偏りがあり、社会性を築くことが困難な傾向にあるものです。「自閉症」や「高機能自閉症」、「アスペルガー症候群」等を含みます。近年では、こうした傾向をより広い概念でとらえようという動きから、「自閉症スペクトラム(スペクトラム=連続体)」と呼ばれることもあります。
「自閉症」......言葉の発達が遅れる、集団に入ることが難しい、落ち着きがなく動き回る、特定のものにこだわりがあるなどの特徴を持ちます。自閉症のうち、知的障がいを伴わないものを特に高機能自閉症と呼びます。
「アスペルガー症候群」......言葉の発達の遅れはみられませんが、社会性の困難など、自閉症と同様の傾向があります。知的障がいはほとんど伴いません。
●注意欠陥多動性障がい(ADHD)
落ち着きがなく気が散りやすい、片づけが苦手、唐突な行動が多い、順番が待てないなどの特徴があります。学齢期には3〜7%に見られると言われています。
●学習障がい(LD)
その人の全般的な知能水準に比べて、読むこと、書くこと、計算することなど、特定のことが極端に苦手であるものです。
◆傾向と援助の方法
発達障がいの傾向がある子どもは、こうした特徴が何らかの形で、乳幼児のころから表れることもあります。そして、活発に対人行動を取るようになってくると、その傾向がよりはっきりしてきます。表れ方には個人差がありますが、それぞれの特徴が重なって表れることも多いようです。
特に、自閉症などの広汎性発達障がいの場合には、コミュニケーションに関して特徴が出やすいようです。相手と視線が合わなかったり、言葉を発していても、他者にメッセージを伝える意思を伴っていなかったりします。あるいは身振りなどがうまく使えない、言外の意味や話の文脈がよく理解できないといった傾向もあるようです。
小学校に入ってからは、たとえば話すこと自体は好きな子どもでも、話の仕方がワンパターンで一方的、相手の反応に無頓着で、言いたいことだけを言って立ち去ってしまったりします。また、何度も同じ質問を繰り返したり、相手の気持ちを慮ることなく率直な発言をしてしまうなど、成長するにつれて、いわゆる「空気が読めない」といった傾向が目立つようになるようです。
親や教師、友だちからそんな点を指摘されたとしても、基本的には脳機能の発達の偏りによるものなので、周囲が望むようには簡単に変わることができません。これを本人の努力不足としてとらえると、本人の反応は「変」だったり「不気味」だったり「イライラ」したりするかもしれず、釈然としない気持ちばかりが残ることでしょう。
また本人にとっても、何の悪気もないのに、あるいはがんばっているのに、周囲から批判的な目を向けられるのは非常につらいことです。学校に行くのが嫌になって登校拒否となったり、ひきこもったりすることもあります。
こんなときは、親や支援者の対応がカギとなります。周囲の大人は、彼らをなんとかしていわゆる「ふつう」の子にしようと考えるので、「そんな言い方はやめなさい」「どうしてうまくやれないの」と、つい悪いところを批評したり、「こういうやり方ではなく、こうしなさい」と必死にがんばらせたりしてしまいがちですが、それは逆効果です。
「そんな言い方」と言われても、本人にとってはふつうの言い方にすぎないので、彼らの視点に立った説明を受けないと本当に何が問題なのかがわからないまま、「どうせ自分はダメなんだ」と自信を失ってしまうかもしれません。こうした特性を持つ子どもに教えるときには、その子がいまできていないことを丁寧に確認し、子どもに寄り添いながら一緒に問題を解決するという姿勢を示すのが大切です。
「グレーゾーン」の子どもは、特有の発達スタイルをもつ人たちなのです。この年齢ならここまでできていなくては、とあせるのではなく、その子なりの、いま「できること」と「できないこと」があることを理解しようとすることが必要です。
また、「グレーゾーン」の子どもたちには、これまでの教育上の通念や規範が通用しないこともあります。たとえば漢字の書き取り練習では、何度も同じ漢字を書いて覚えさせる、という方法が一般的です。
しかし、とりわけ書くことが苦手な子どもがいるとしましょう。字の細部を認識することが難しいため、視覚的には字を理解していても、書き取りのときにマスからはみ出してしまったり、黒板の字をノートにとることがうまくできなかったり......という子どもたちです。彼らが、果たしてこの方法でうまくいくかというと、答えはNO!です。
多少は上達するかもしれませんが、何らかの機能の未発達が影響していると考えられるので、効果が上がらないばかりか、かえって本人のやる気を阻害してしまうことになりかねません。「やればできるはず」は通用しないこともあるということを、頭の片隅に置いておいてください。
こうした認識が現場の先生に浸透してきたのは、おそらくここ数年のことなので、学校によって対応がまちまちということも考えられます。昨今では、各校で何らかの形の特別支援教育が取り組まれているので、気になる場合はまずは先生に、そして専門機関に相談してみるとよいでしょう。
発達に独自のパターンを持つ「グレーゾーン」の子どもたち。彼らを健やかに育むには、一体どのような点に留意すればよいのでしょうか。
精神科医の本田秀夫さんは著書の中で、特に思春期前には、「意欲のエネルギー」を蓄えることを目指せばよいのでは、と述べています。
支援で行うべきことは、①自己肯定感を高めておくこと、②得意なこと、ほかの子と違うところをほめること、③苦手なことの特訓を極力させないこと、④大人に相談してうまくいったという経験を持たせること、の4点だといいます。
③は、先ほどの漢字練習のエピソードに通じますが、身の回りのことが少しずつわかり、自発的なやる気や目標が出てこないうちに、自己肯定感を下げるような無理強いは避けたほうがよいということです。また④については、「相談する」ということ自体、困難を抱える子どもが最も苦手とするコミュニケーションであることを理解して、将来的なコミュニケーションの芽を摘むことなく、相談による成功体験と信頼関係を大切にしていこうとするものです。
こうして「意欲のエネルギー」が蓄えられたら、思春期以降、多少の困難には自分から意欲的に立ち向かえるようになるのではと、本田さんは言います。本人のライフステージに応じた支援を心がけたいものです。
◆「グレーゾーン」の子どもが目立つ背景とは
「グレーゾーン」の子どもは、クラスに2〜3人は含まれているのではないか、という調査結果を先ほど紹介しましたが、現場の実感としてはクラスの1割ほどではないか......という声も聞こえてきます。こうした子どもが昨今多いように思えるのは、何か理由があるのでしょうか。
作業療法士の木村順さんは著書の中で、現代の子どもたちが失ってしまったものに、3つの「間」があることを示しています。
①「時間」...塾や習い事などに忙しく、遊ぶ時間が少なくなったこと、②「空間」...特に都市部では極端に遊ぶ場所が限られており、自然の中で身体を使って遊ぶ機会が減ってしまっていること、③「仲間」...かつてのような異年齢集団の子どもたちが遊ぶことがほとんどなくなってしまったこと、という3つの「間」です。
外遊びは、水に触れたり走り回ったり、緑の香りを感じたりと、五感をフルに刺激する機会となり、身体的な感覚を脳で統合させることができます。つまり、脳の発達によい影響を与えるのではないかということです。また、異年齢集団での遊びについては、歳の違う仲間と日々触れ合うことで、相手を理解するための言葉以外の感覚を研ぎ澄ますことにもなり、たとえグレーゾーンのような特性があったとしても、自己修正していくチャンスを得られるのではないかと言います。
確かな裏づけはないとしながらも、説得力のある仮説であり、今後の支援を考える上で参考としたいところです。
◆「ふつう」とは結局何か?
「グレーゾーン」の子どもの特徴を知って思うことは、これまでそうしたこととは無関係だと思っていた私たちも、多かれ少なかれそれぞれの傾向を持っている、ということです。自分の好きな話題になると興奮して話し出したり、物の配置にこだわり、家族が違うところに物を置くと、とたんに不機嫌になったり......。家族に、そして自分に、心当たりはないでしょうか?
そのような傾向の極端に強い人は、時に支援の対象となりますが、「ふつう」であるということ自体、その集団の中の平均に近いというだけで、本来あいまいな線引きであることを忘れてはならないでしょう。
また、子ども時代を振り返っても、クラスで明らかに不器用な子がいましたが、その子がいじめられていたかというと、決してそうではありませんでした。「しょうがねえなぁ」などと言いながら、結構、皆でその子をフォローしていたのを思い出します。「彼はそういうものだ」という共通認識が、クラス内にできあがっていたのかもしれません。
「グレーゾーン」の子どもたちも、いずれは社会に出て行く日が来ます。同時に周りの子どもたちも、さまざまな価値観がひしめく社会で、日々、多くの人と出会いながら生きていくのです。世の中に完璧などありません。また、「ふつう」という概念もとても曖昧なものです。違いを排除するのではなく、それぞれを認め合いながら「お互いさま」の気持ちで共生していくこと。それが叶えられるような、余裕のある社会の構築を目指したいものです。