家庭・暮らし

おもちゃドクター診療中!―「おもちゃサロン」訪問記

ぴっぱら2012年1-2月号掲載

▽おもちゃに囲まれた「憩いの場」

金曜日の昼下がり、下町の風情を色濃く残す東京都墨田区にあるボランティアセンターの一室では、ちびっことお母さんたちがくつろぐ「おもちゃサロン」が開かれていました。30畳ほどの和室には、新幹線のプラレール、木の積み木、そしてカラーボールがたくさん敷き詰められた、子どもたちが大好きなボールテントなど、大小さまざま、色とりどりのおもちゃが用意されています。

小さな子どもならずとも思わず夢中になってしまうおもちゃの間は、社会福祉法人墨田区社会福祉協議会が数年前より開設しているものです。
同様のサロンは、「おもちゃ図書館」として全国に現在600カ所近くが開かれています。障がいのある子どもたちにおもちゃの素晴らしさと遊びの楽しさを、との願いからスウェーデンで始まったこの活動は、現在では障がいをもつ子もそうでない子も、ともに遊ぶことのできる子どもの交流の場として活用されています。また、おもちゃの貸し出しも行っています。

同協議会が運営するサロンは地域に2カ所。どちらも月に1度ずつの開催で、あわせて毎月60組ほどの親子が利用しているそうです。「日程が増えればそれだけ利用しやすくなります。もっと多くの会場で開催できれば」と、サロンを担当する同協議会の大倉祐子さんは語ります。

地域に住むお母さんたちも、ボランティアとして運営に協力しています。若いお母さんはここを子どもの遊び場としてだけでなく、子育てで気になることなどを、ボランティアさんたちに気軽に相談できる場としても活用しているようでした。

▽子どもの笑顔を励みに

サロンには、女性だけでなく年輩の男性の姿もありました。
「定年を迎えたら、なんとお医者さんになれてしまいました」と茶目っ気たっぷりに語るのは、青い揃いのエプロンに身を包んだ、おもちゃサロン附属診療所の「おもちゃドクター」のお2人です。

河村泰作さんと竹内信彦さんは、ともに60代。おもちゃサロンで診療を行うほか、自宅やイベント会場などでもおもちゃを治療しているそうです。
持ち込まれたおもちゃは一旦預けられ「入院」することも。おもちゃを元気にして子どもたちの手に戻すため、お2人はルーペを頭に、はんだごてを手に治療にいそしみます。診療代は、部品代などの材料費をのぞいては無料。個別のカルテも用意されています。

「動かなかったおもちゃが目の前で動き出すと、心配そうだった子どもの顔がパッと輝く、その瞬間が最高ですね」と河村さんが言えば、「定年を迎えて社会と関わる機会が減ってしまっていましたが、小さな子どもにも会えるしやりがいがあります」と竹内さんも続けます。

元々、手先を使うことが好きで、技術系の仕事にも縁があったというお2人。電気で動くおもちゃを治療してほしいとの依頼がやはり多いそうですが、それだけではなく時には塗料を探して、おもちゃにそっと補色したり......ということも。

この日も、お人形が瞬く間に息を吹き返していました。音楽とともににぎやかに踊りだすお人形。そばで遊んでいた男の子の目が思わず釘付けになっていました。まわりの人にも笑顔が広がります。

「おもちゃを通して、今後は障がいをもつ子どもにももっと関わりたい。もっと使いやすく、遊びやすくしてあげられたら......」そんな夢を河村さんは語ってくれました。

おもちゃ図書館、おもちゃの病院にはそれぞれ全国組織があり、サロンを開設したい、ドクターになりたいという場合の相談も受け付けているそうです。年齢や性別を超えて子どものために活躍できる場。全国でもこうしたサロンやドクターが、さらに増えていくことを願います。