家庭・暮らし

働く母が笑顔になるには...?―子育て家庭をとりまく課題―

ぴっぱら2012年1-2月号掲載

本誌ぴっぱらでも幾度か報じてきましたが、ご承知の通り日本の少子化傾向に歯止めがかかりません。

ひとりの女性が生涯に出産する子どもの数、合計特殊出生率は、ニュースなどでもたびたび数値が紹介されています。ちなみに一昨年は1・39。昭和40年代後半以来、ゆるやかに増減を繰り返しながらそのカーブは右下がりに推移しています。

少子化の原因は、「若い世代がなかなか結婚しなくなったから」「個人が自由さや気楽さを望むようになったから」と言われ、若い世代の非婚化や価値観の変化が主要因であるかのようにみなされていました。

しかし一昨年、妻が50歳未満の夫婦を対象に行った調査によると、結婚している夫婦から生まれる子どもの数も過去最低となり、調査の始まった昭和30年代から、初めて「2人」を下回ってしまったということです。

少子化は「未婚者が増えたから」というだけではなく、結婚していても、子どもを多くは持たない、または何らかの理由で持ちたがらない人が増えたからということも理由であることがわかります。

この調査では、「夫婦が実際には2人以上の子どもを望んでいる」ということも明らかにしています。しかし、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」「自分の仕事に差し支えるから」などという理由で、あきらめる人が多いというこの事実。子どもの数がひとり、もしくは子どもがいないという夫婦も、2割を超えています。

少子化を政府が「問題」としてはっきり意識し始めたのは1990年代初頭のことです。現在までの約20年間、官民をあげてさまざまな対策がとられ、一定の効果をあげているようですが、まだまだ、状況が好転したとは言い難いのです。

その間にも景気は悪化の一途をたどり、特に、家庭を持とうという若い世代が不安定な雇用状態にさらされています。男女ともに必死に働かなければ、家計を支えることができないという現実を抱えています。

「安心」がなければ、人は子どもを持とうとはしないでしょう。今、子育て中の家庭をとりまく状況とはどのようなものでしょうか。

◆どうして自分ばかり......A子さんの場合

「毎日、みんなに謝りながら暮らしている」と語るのは、東京都内の電子機器メーカーに勤務するA子さんです。

正社員として働くA子さんは、保育園のお迎え時間に間に合わせるため、勤務時間が終わる6時には毎日飛ぶように会社を出ています。

「忙しくみんなが仕事をしている中、いつもひとりだけ先に帰るのは本当に気がひけます。職場は残業も当たり前、という雰囲気。上司には嫌味ともとれることを言われ、胃が痛くなることもあります」

システムエンジニアとして働くA子さんの夫は、帰宅時間が不規則で、保育園に通う息子のお迎えはいつもA子さんの仕事です。通勤にやや時間がかかるため、早めに会社を出ても、お迎えはどうしても最後の方になってしまうとか。

「友達には早くお迎えが来て、自分ばかりが残っていると思うと子どもは心細いらしく、情緒不安定になったこともありました。『寂しい思いをさせているな』と、子どもに対しても申し訳ない気持ちでいっぱいです」

A子さんは職場と子どもにだけでなく、お迎えが遅くなると保育所の先生に謝り、子どもが熱を出したときなどは保育所では預かってもらえないため、車で1時間かかる夫の実家を頼りますが、そうしたときには義父母にも頭を下げます。A子さんの実家は遠くてとても頼れません。

「独身の友達や、専業主婦の子育て仲間を見ると時々うらやましくなります。自分が選んだ道なのですが、どうして自分ばかりがこんなに大変なんだろうと考えてしまいます」

こんなときに頼るべきなのは夫なのでしょうが、子育てについて夫の影は限りなく薄いようです。

「子どものお迎えで早く帰るなんて、とても会社では言い出せない」という夫に文句を言っていた時期もあったA子さんですが、最近ではケンカになるのも疲れるのであきらめていると語ります。

◆子どもが生活のリスクとなる現実

近年では、女性の育児休業取得率は9割近くに達しています。働く女性が少数派であった頃と比べると、働く女性に対する支援策は徐々に手厚くなり、一定の効果をもたらしているようです。しかしその反面、第一子の出産を機に、いまだ6割以上の女性が離職しているのです。

2008年に厚生労働省の委託により実施された、子育て期の男女への仕事と子育ての両立に関するアンケート調査よると、妊娠・出産前後に女性正社員が仕事を辞めた理由は、「家事、育児に専念するため自発的にやめた」が高い率ですが(39・0%)、他方で、「仕事を続けたかったが仕事と育児の両立の難しさでやめた」(26・1%)と「解雇された、退職勧奨された」(9・0%)の合計が35・1%と、3分の1強を占めているのです。

さらに、「仕事を続けたかったが仕事と育児の両立の難しさでやめた」を挙げた人に具体的な理由を聞くと、正社員では「勤務時間があいそうもなかった」「職場に両立を支援する雰囲気がなかった」を挙げた人が多く、非正規社員では「育児休業をとれそうにもなかった」「保育園に子どもを預けられそうにもなかった」などという理由が目立ちます。

産前産後の休業や育児休業を理由に解雇したり、その他の不利益を当事者に与えることは、法律により禁止されています。それでもなお、解雇や退職勧奨をされて「(仕事を)やめたくないのにやめざるを得なかった」女性が正社員で1割近くいることは驚きです。

育児休業を取っている間、代替要員として他の部署から社員が移動してくると、戻ってきても「もう席がないよ」と職場復帰を断念させられたり、圧力をかけられて自ら離職するよう追い込まれたりと、女性からのこうした相談は後をたちません。

産前産後休業は、労働基準法によって正社員だけでなく非正規社員の女性にも認められています。また、育児休業についても「同一の事業主に引き続き雇用された期間が一年以上」など、一定の要件を満たせば非正規雇用であっても適応されます。

しかし、実際には妊娠がわかった時点で次の雇用契約を更新されない「雇い止め」にあうことも多く、ほとんどの人は権利が発生しながらも泣き寝入りせざるを得ない現状です。

現在、子育て世代は男女ともに非正規社員の割合が高くなっていることを考えると、子どもを持つか持たないかという問題だけではなく、非正規社員の女性が子どもを持つことは、職を失う可能性が高く、すなわち生活の困窮に直結する危険性をはらんでいることを示します。これが他に頼る術のない家庭であれば困難はなおさらです。

これでは、いくら子どもを持ちたいと願っても、早い時点で「生きるために」あきらめる人たちが増えるのも当然ではないでしょうか。

◆立ちはだかる「小1の壁」

仕事を持ちながらも、子どもに手のかかる乳幼児の時期を乗り切り、いよいよ子どもが小学生、というお母さん。ここにきてようやく楽になれるかと思いきや、働く母にはさらに高いハードルが待っていました。

子どもが保育園に行っていれば、延長保育も利用できるため、親にとっては大きな助けとなっていました。最近では、幼稚園でも保育時間終了後に子どもを預かる「預かり保育」を行うところが増えています。しかし、子どもが小学校に入学すると状況は変わります。小学校低学年の子どもは下校時刻が早いため、多くの親は子どもを「放課後児童クラブ(学童保育)」に預けることになります。しかし、学童保育は地域や施設ごとにその運営方法はさまざまです。

近年の調査によれば、学童保育の約半数が午後6時までに終了してしまうそうです。午後6時では、親が勤めを終え、迎えに行くまでに十分な余裕があるとは言えません。祖父母などの頼れる人間が近くに

おらず、小学校低学年の小さな子をひとりで帰宅させたり、留守番させたりすることに不安がある親、特に母親は、悩んだ挙句ここにきて勤めをあきらめることになります。これが、いわゆる「小1の壁」です。

保護者会などの学校行事も、依然として母親が家にいることを前提にしており、平日の昼間に設定されていることが多いのです。手厚かった未就学期の保育サービスからは一変、子どもが小学校にあがると、働く母は新たな葛藤に向かい合わなければなりません。

◆私たちにもできる支援を

保育所同様、働く母の増加によりそのニーズが高まっている学童保育。政府の掲げる「子ども・子育てビジョン」により、学童保育数は今年春の調査では全国で2万箇所を超えるなど、短期間で大幅に増加しました。しかし、希望する子どもが全員入れるわけではありません。入所希望者の増加に伴い、定員がいっぱいで利用できなかったという子どもは、厚生労働省の調査によると、全国で1万人以上に上ります。

また、学童保育は家庭の代わりに子どもが安心して過ごせる場所であるべきですが、大幅な人数超過による劣悪な環境の学童保育所も多く、問題となっています。こうしたことは、終戦直後から制度化され、市町村の事業として整備されてきた認可保育所と比べ、その歴史が浅く、法的な最低基準が明確でない学童保育ならではの問題ともいえます。

国からの補助金も十分とはいえず、施設や市町村によって保育料額も大きく異なっています。また指導員はそのほとんどが非正規雇用で、低賃金・低待遇にさらされているのです。

学童保育ひとつをとりあげてみても、子ども支援の現場ではこのように課題が山積みです。国が少子化解消を望むのであれば、現場の声をきちんとすくいとり、課題一つひとつに対処していくほかありません。結婚・出産・育児世代の雇用・労働環境を把握し、さまざまな施策の網から漏れてしまっている親子・家族への救援策を早急に打ち出すべきです。また、多くの子育て家庭で、家事・育児負担が母のみに重くのしかかっていることも問題視するべきでしょう。これは、「家事・育児は女の仕事」という役割意識自体を改めていくほか、どうしても仕事中心にならざるを得ない男性の雇用環境をも変えていく必要があります。

子どもを持つことがこれほど大変になってしまった現在、国や自治体に働きかけることはもちろん、もっと身近なレベルでの支援も考えたいものです。地域の大人たちが子育て中の家族との関わりを増やして、少しでも力になろうとしたり、居場所や労働力を提供したりと意識的に努めることで、子育て中の家族は、張り詰めた気持ちから解放されるのではないでしょうか。

社会は目に見えない縁で結ばれています。子どもを社会全体で育てる心意気が今、必要ではないでしょうか。