不登校・ひきこもりについて考える

不登校問題への取り組み

文部省は毎年8月に、年度間で30日以上欠席している小・中学校の「不登校児童生徒数」を公表しています。これによると平成10年度は、小中学校合わせておよそ12万8千人を数え、平成3年度の約2倍にまで増加しました(表1)。全青協では、かつて寺子屋が担っていた教育機能に注目し、寺院の中に子どもたちの居場所を作る「寺子屋NPOプログラム」に今年度より取り組みます。

学校へ行かないことも選択のひとつ

文部省もここ数年、不登校問題に対する危機感をいだき、平成10年度より「スクール・カウンセラー制度」「心の相談員制度」などを設けて、子どもたちの心のケアーに取り組み始めました。翌11年度には「不登校児童生徒の適応指導総合調査研究」として7億円の予算を計上し、全国の専門機関を通じて不登校問題に関する調査を行っています。
従来、不登校の子どもたちは、ほとんどの場合において、精神的な疾患という側面からしか理解されてきませんでした。しかし現在では、不登校問題を子どもの個人的な事柄としてとらえるのではなく、現代社会のひとつの象徴とみなすようになってきました。それは、高度成長期を支えてきた社会システムと、その根底にある価値観が、バブル経済の崩壊を経て急速にゆらぎ始め、学校教育そのものあり方が問題視されるようになったからです。
「学校へ行かないことも子どもたちの選択のひとつ」という価値観が、徐々にではありますが社会の中に浸透し始めてきています。文部省もこれまでは学校教育制度の維持ばかりに躍起になってきましたが、近年ではようやく「フリースクール」などの民間教育施設に注目しはじめました。その姿勢の表れのひとつが、学校長の裁量で民間施設への出席を学校の出席日数に加えることを可能にしたことです。

寺子屋NPOプログラム

さて、このような状況の中で、仏教界でも不登校問題に取り組む寺院が少しずつ増加をしてきています。寺院主催の「不登校問題のシンポジウム」、「自然環境を利用したフリースペース」、「不登校児を持つ親の会」、「自立支援の場としてのハーブ喫茶店」など、全国各地の寺院でさまざまな取り組みがなされています。
全青協でも平成12年度より「寺子屋NPOプログラム」という不登校の子どもなどを対象とした自立支援プログラムを展開していきます。このプログラムは、地域コミュニティーの核として存在してきた寺院を、かつての寺子屋のように「不登校児の居場所」や「自立支援センター」として考えていこうという試みです(図1)。

「寺子屋NPOプログラム」は、NPO(民間非営利組織)運営の手法を利用しながら、地域、行政、企業とのパートナーシップを結んで、既成の教育システムにとらわれない不登校児たちの教育の場を作るものです。たとえば、「人材は地域」が、「資金は行政や企業」が、「場所は寺院」が提供するといったように、人的・物的負担をそれぞれが負担し協力しながら、地域社会の中で子どもたちの教育や自立支援を行っていくものです。
江戸時代の寺子屋は、生活上の自立支援の場であり職業訓練校のようなものでした。現代の寺子屋もまた子どもたちの一時的な避難所としてではなく、自立支援の場でありたいと考えています。地域コミュニティーに開かれた寺院を場とすることによって、子どもたちは多種多様な価値観と出会いながら、個人のアイデンティティーを確立していくことができるものと考えています。その過程の中で、子どもたちの「生きる力」が養われていくのではないでしょうか。

寺院という場の重要性

寺院を不登校の子どもたちの「居場所」として考えるとき、特に重要となるのが「死の存在」という「場の利」だと思います。寺院には墓や葬儀をはじめ、さまざまな「死」との出会いがあります。今日、私たち日本人は、大人も子どもも含めて「死」と出会う機会が極端に制限されています。そこには大量生産・大量消費社会の中で意図的に作り出された、「生の永遠性」に対する幻想が大きく起因しているものと考えています。高度成長社会は「生の永遠性」という実体のない概念をもとに発展し続け、「死のリアリティー」を私たちの心の深層に閉じ込めてしまったようです。
仏教にはお釈迦さまの時代から、「死を見つめることにより本来の生が明らかになる」という考え方があります。「死のリアリティー」を感じる場としての寺院の機能を、ぜひ子どもたちの「生の輝き」のために有効に活用していきたいと思います。
「寺子屋NPOプログラム」についてのみなさまのご意見をお待ちしております。
(担当:JIN)

※全青協では、1999年11月1日・2日の両日にわたって、東京の築地本願寺で「不登校問題を考える――寺院における子どもたちの自立支援プログラムの提案」と題するフォーラムを開催し。その内容をまとめたブックレット『不登校を考える』(500円)を刊行しました。ご希望の方は、全青協事務局までお問い合わせください。
また、寺子屋NPOプログラムを提案した小冊子『不登校問題と寺院活動』(300円)も刊行しております。こちらも、ご希望の方はお問い合わせください。