社会とかかわる仏教

Singwith yourneighbors開催!―社会問題をともに考え、ともに生きよう―

ぴっぱら2011年11-12月号掲載

▽都心のお寺で音楽イベント

うららかな秋日和の10月1日、東京都心の青山では、あるイベントが行われていました。メインホールのドアを開けてまず視界に飛び込んできたのは、ステージ上で歌うアーティスト、それから最前列を元気に走り回るお子さんに、それを必死に追いかけるお父さん。

そんな様子に目を細めているお客さんたちは、若い音楽ファンだけでなく、野宿生活を経験したおじさんたちをはじめ、老若男女、実にさまざまです。そして、それらすべてを穏やかな眼差しで見つめているお坊さんの像がどっしり鎮座しています。そう、ここは浄土宗のお寺、梅窓院・祖師堂という法然上人像を安置するお堂なのです。

発端は、シンガーソングライターの寺尾紗穂さんから「お寺で、社会問題を考え、雑誌『BIGISSUE』を知ってもらうための音楽イベントをしたい」という打診を受けたことにありました。

『BIGISSUE』とは、路上生活者や生活困窮を抱える人が販売する雑誌です。こうした方に仕事を提供し自立を応援する目的でイギリスにて生まれ、日本では2003年に創刊されました。
趣旨に賛同し、参加してくれたアーティストは寺尾さんを含めてなんと10組。とはいえ、何から何まではじめてのイベントで、関係諸団体と協力しながら何度も会議を開き、文化祭さながらの手作り感満載の雰囲気で準備を進めてきました。

当日、会場でまずお客さんをお出迎えしたのは、『BIGISSUE』の表紙175号分を一堂にならべた圧巻の展示です。また、協力団体のひとつである「NPO法人自立生活サポートセンターもやい」は、当事者による絵画の展示と、フェアトレードのコーヒー豆を焙煎した「こもれびコーヒー」、宮城県の郷土料理「おくずかけ」の炊き出しをしました。

そして若手僧侶を中心に、おにぎりを配り生活困窮者支援の活動を行う「ひとさじの会」では、活動日誌の展示と得意のおにぎり、そして会で企画し福祉作業所に制作依頼した「オリジナル手漉き散華」を、チケット代わりに配りました。

▽ともに生きるということ

お昼が過ぎる頃には、炊き出しブースはいつの間にやらスタッフによるバルーンアート教室に様変わりしました。夢中になってはしゃぐ子どもたちの姿に、通りかかった来場者の方々もついつい破顔一笑。子どもの可愛さに心が浮き立つのも、出来たての温かい食べ物が美味しいのも、食後にほろ苦いコーヒーが飲みたくなるのも、にぎやかな音楽に心躍って身をくねらせるのも、私たちの日常で許されたささやかな幸せでしょう。では、もしそんな当たり前を奪われてしまったら......。

座談会では「ともに生きる」というテーマで、そんな話題もしっかり語り合いました。座長の日本元気塾・米倉誠一郎さんと協力各団体の代表者、さらに雑誌の販売員さんを加えて、路上生活の方々の周辺をめぐる差別と偏見について議論しました。そして終盤には、寺尾さんによる「このイベントをあと10年は続けたいです。続けてこそ意味があるのだから」との宣言が飛び出しました。

もしも10年続いたなら......。今日来場してくれたあの子たちは、どんなに大きくなっているのでしょう。大人になるにつれ、きっと今はまだ知らない差別や偏見の心と、否が応にも向き合わなければならない日がやってくることでしょう。

そんなとき、一緒に音楽を楽しみ、悩み考えようというこんなイベントがあったことを思い出して、また一緒に謳うことができたなら、こんなに嬉しいことはありません。ともに生きよう。Singwithyourneighbors!!
(ひとさじの会・工藤量導)