社会とかかわる仏教

お父さんお母さんに知ってもらいたい 戦争のつくり方ーいま、日本に起こっていること

ぴっぱら2015年7-8月号掲載

全国青少年教化協議会主幹
チャイルドライン支援センター代表理事
神 仁

太平洋戦争が終結してから丸70年が経ちます。いま子育て中のお父さんお母さんたちにとっては、日本とアメリカが戦争をしていたこと、日本が東アジアや東南アジアへ進出し、多くの国々を植民地化していたことなどは、想像することさえ難しいことかもしれません。

大戦中には、日本人だけでもおよそ310万人が命を落とし、アジアの国々では2000万人もの方々が亡くなっています。多くの若者が徴兵制によって戦地にかり出され、加害者となり被害者となっていきました。現在でもお隣の韓国にはこの徴兵制が残っています。韓流スターが徴兵された際には日本のメディアでもしばしば報道されることから、このことをご存知の方が多いかもしれません。

いま国会などで話題となっている「憲法解釈」が時の政府によって自由に行われるようになると、10年後の日本で徴兵制が復活することもあながち可能性がないことではないように思われます。現在、小学生・中学生の子どもたちが近い将来、戦場に送り込まれることにもなりかねません。

また、徴兵制が復活しなくとも、政府の憲法解釈によってアメリカなどの同盟国を守るために武力を使う「集団的自衛権」が認められることになれば、自衛隊に入隊する若者たちが、戦場で再び加害者となり被害者となることは明らかです。

いまお父さんお母さんたちにお願いしたいことは、先の大戦の歴史をしっかりと学習し、その悲惨な事実を、いまを生きる子どもたちの身に引き比べて受け止めてもらいたいということです。

そして、日本社会がどのような方向に向かおうとしているのか、またその結果、子どもたちにどのような影響を与えるのかをしっかりと見極めていただきたいということです。

いまから10年ほど前、一冊の絵本が世に送り出されました。それは、『戦争のつくり方』(りぼんぷろじぇくと・マガジンハウス発行)という本です。

その本の中の文章を少し引用しながら、いま日本の社会で何が起こっているのかということを考えてみたいと思います。

わたしたちの国は、60年ちかくまえに、「戦争しない」と決めました。
だからあなたは、戦争のために なにかをしたことがありません。
でも、国のしくみやきまりをすこしずつ変えていけば、戦争しないと決めた国も、戦争できる国になります。
そのあいだには、たとえば、こんなことがおこります。
わたしたちの国を守るだけだった自衛隊が、武器を持ってよその国にでかけるようになります。
世界の平和を守るため、戦争で困っている人々を助けるため、と言って。

日本の自衛隊は、1991年の湾岸戦争以後、「後方支援」や「復興支援」の名の下に、世界各地に派遣されるようになりました。湾岸戦争の際には、ペルシャ湾に設置された機雷の除去に携わりました。これは人命に危険が及ぶ可能性のある、自衛隊初の海外任務となりました。

また、アメリカでの同時多発テロの後に起こったアフガニスタン紛争の際には、インド洋上で、アメリカ海軍などの船に給油支援を行いました。
さらにイラク戦争に際しては、4年にわたり武装した自衛隊員が、イラク国内に駐留することとなりました。

湾岸戦争、アフガニスタン紛争、イラク戦争では、確定された数字はないのですが、何万とも何十万とも言われる人が命を落としたとされています。その中には子どもを含む多くの民間人が含まれています。「後方支援」とは耳あたりの良い言葉ですが、実際には間接的に戦争に参加することなのです。

また、日本人自身は戦闘の中では一人も命を落としていないと言われてきましたが、最近になって、イラクやペルシャ湾に派遣された自衛隊員のうち、56名もの人が自殺をしていたことが公表されました。戦闘の中でこそ亡くなった人はいないものの、実際には多くの犠牲者が出ていたのです。

イラクが大量破壊兵器を保有していることを理由に起こったイラク戦争でしたが、その後、今に至るまで、イラクから大量破壊兵器は見つかっていません。はたして何のために多くの命が奪われたのでしょうか?

私たちの国の「憲法」は、「戦争しない」と決めています。
「憲法」は、政府がやるべきことと、やってはいけないことを私たちが決めた、国のおおもとのきまりです。
戦争したい人たちには、つごうのわるいきまりです。

これまで政府が「憲法解釈」によって「集団的自衛権」を認め、他国の戦闘に自衛隊を参加させようとしているというお話をしました。しかし、それは「憲法改正」へ向けた一つのステップだと考えられるのです。

安倍首相は、昨年12月に行われた衆議院選挙の開票直後のテレビ番組で次のように語りました。
ジャーナリストの池上彰さんが安倍首相に対して「憲法改正に向けて、一歩一歩進んでいくということですね?」と問いかけたところ、「その通りです」と明言したのです。

いまはやむをえず憲法解釈によって集団自衛権を行使するけれども、やがては「憲法そのものを改正するぞ」、という意思表示のように思われてしかたがありません。

そもそも憲法とは、国民の権利を守るために権力者が守らねばならないものです。ですから、国民が守らなければならない一般の法律とは大きく異なります。そして、憲法の内容そのものを決めるのは私たち国民自身です。けっして政府ではありません。憲法は国家の権力を制限して、国民の自由と権利を保障するものなのです。

2012年、その憲法を変えるために自由民主党が「日本国憲法改正草案」というものを発表しました。

その中では、第二章の安全保障について、「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」という言葉があります。現在の憲法の中に明記されている「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という一文はまったく抜け落ちてしまっているのです。

そしてこれまでの専守防衛を目的とした自衛隊から、公に海外へ派兵のできる国防軍に名称まで変わってしまいました。

また、第三章の国民の権利及び義務の中では、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」と規定しています。ようするに、これまで認めてきた私たちの「表現の自由」に対しても制限を加えたのです。

ここでは、憲法が国家の権力を制限するものから、国民の権利を制限するものに変わってしまっています。本末転倒だとは思いませんか?絵本は次のような言葉で締めくくられています。

わたしたちは、未来をつくりだすことができます。戦争しない方法を、えらびとることも。

子育て中のお父さんお母さんにもう一度お願いしておきたいと思います。

子どもたちを戦場に送らないために、いま起こっている一つひとつの事柄に気づいてください。そしてぜひ、戦争のない平和な未来を子どもたちにプレゼントしていただきたいのです。

えらぶのは、みなさん一人一人なのです―――。