仏教者の活動紹介

支えあい実践する「人間礼拝」の理念 ―社会福祉法人暁雲福祉会―

(ぴっぱら2013年1-2月号掲載)

大分県大分市の中心街から電車で20分。駅から車で住宅と田畑の間を進むと、緑のひときわ深い高台の一角に青い屋根の建物が見えてくる。ここ「八風(はっぷう)(えん)」は、1982(昭和57)年に設立された大分市内では民間第一号となる、知的障がい者のための通所型福祉施設である。

定員40名の施設には知的障がい者の方々が食事、移動、排泄などの生活介護を受けながら、軽作業や自己表現活動(アートセラピーやミュージックセラピー)に励んでいる。 

八風園を運営しているのは、社会福祉法人()()福祉会。同会理事長の丹羽一誠(いちじょう)さんは、浄土宗僧侶であり法然寺の住職でもある。「暁雲」の意味には「夜明けの空を染める暁の雲ははじまりの色であり、先駆的に福祉に取り組む」とした想いが込められている。 

◆はじまりは小さな作業所から

暁雲福祉会の前身は1978(昭和53)年、先代住職の(えん)(じょう)さんが私費を投じてお寺の境内に授産所を開設したことにはじまる。プレハブの小規模授産所は大分県では第一号であり、5人の通所者を迎えての開始だった。

当時のことを一誠さんは「檀家参りのなか、養護学校の卒業生など障がいのある若者が就職できなかったり、家にこもったりしている姿を見て、なんとかこの子たちが通う場を作れないかと先代は考えていました」と語る。

通所者の昼食や生活指導はお寺の庫裏を利用し、時にはお寺の法要にも参加するなど、お寺で過ごす毎日だった通所者の方々。行く所が見つかり、自分が誰かに必要とされていると実感できる場所のあることが、いかに生活の張りをもたらすかを、一誠さんと寺庭婦人であり暁雲福祉会の常務理事でもある丹羽和美さんは痛感したという。その4年後、通所者は16名に増えた。

1981(昭和56)年、世界規模での障がい者の活動・就労機会の権利保障がうたわれた「国際障害者年」を迎え、演誠さんはこれを契機に社会福祉法人の認可を取り暁雲福祉会を設立、境内の作業所を廃して八風園を開園した。

◆100人以上の受け皿となる

現在、暁雲福祉会では八風園のほか、社会的自立を目指す就労継続支援事業B型の福祉サービス事業所「八風・be」、一般就労を目指す障がい者の雇用や就労支援を中心に行う多機能型の福祉サービス事業所「ウィンド」、八風園同様に生活介護を行う福祉サービス事業所「八風・マーヤの園」を展開。総勢139名の知的障がいのある方々に利用されている。

「森のクレヨン」というブランドも立ち上げ、パンやクッキーの製造・販売をはじめ、クリーニングの取り次ぎ業務、押し花や墨字によるカレンダーの製作などさまざまな事業に取り組んでおり、本人のニーズや障がい程度に応じた福祉サービスを提供している。

また、日中だけではなく、夜間でも地域で暮らせるよう共同生活の場であるグループホームや、24時間対応のケアホームも開設。障がいのある方でも地域の中で安心して生活できる仕組みを整えている。

「働く場ができたら、次は自立を目指し住む場所を、次は介護の場を......と、お一人おひとりのニーズに対応しようとしたら、今日の形となったのです。草取りなどの彼らにできる仕事をつくり出すために、霊園まで作ってしまいました」と一誠さんは微笑む。

さらに注目すべきことがある。それは企業と手を携え、知的障がい者雇用に特化した会社の創設に取り組んだことだ。

2008(平成20)年に設立された「キヤノンウィンド株式会社」は、一眼レフカメラを製造する「大分キヤノン株式会社」の特例子会社であり、暁雲福祉会との合弁に基づく会社である。

現在18名の知的障がい者が働いており、中には職業的重度判定を受け、本来ならば一般就労が難しいとされる知的障がい者の方も勤めている。社員になるために実習生として企業内実習を経て、採用試験に臨んで来ただけに会社に対する熱い想いを、一人ひとりが大切に持っている。

「無理だ、不可能だといわれてきたことが実現できたのは、本当に嬉しいことです。どんなに重い障がいがあっても、働きたい、社会で求められる存在でいたいという思いは同じです。キヤノンウィンドで働いている方たちは、グループホームに入る生活費を差し引いても生活できるお給料を得ることができています。障がいのある方が、職業として5年、10年と働き続けられる仕組みを作れたら」と、同社の取締役も務める和美さんは熱くその思いを語った。

◆日々の変化に喜びを見出すこと

「はじめてもらった給料でばあちゃんに服をかってあげました」「私がキヤノンウィンドにはいって良かったことは、イタリア旅行に自分のお金で行けたことです。これからもがんばって働いてきゅうりょうをもらってかいがい旅行に行きたいです」など、暁雲福祉会の創立30周年記念誌には社員から喜びの声が寄せられている。障がいのあるわが子の将来を、心配したことのない親御さんはいないことだろう。ご家族のお喜びはいかばかりであろうか。

暁雲福祉会の理念は「人間礼拝らいはい」。たったひとつの尊いいのちを、支え合って生きていきたいという願いである。次々と新たな事業にチャレンジする暁雲福祉会の歩みは華々しくも感じるが、言うまでもなく現場が大切にしているのは、一人ひとりに寄り添うことを前提にその変化を喜ぶ毎日の積み重ねにほかならない。

「人はつい不安を抱き、成果を急ぎがちですが、日々の小さな変化に喜びを感じながら、忍耐強くよりよい方法論を探していくことが大切ではないでしょうか」と和美さん。

◆「一寺院一事業」を

一誠さんの祖父に当たる先々代、(かん)(じょう)さんは、昭和のはじめ頃、自ら里親として、親元で暮らせない大勢の子どもたちをお育てになったそうだ。世にあるままならないことに向き合い、ままならないことを抱えた方に寄り添った歴代師僧の精神は世代が変わっても受け継がれ、今でも多くの方と尊いご縁を結んでいる。

一誠さんは、現在の僧侶のあり方に次のような考えを巡らす。「たくさんのお寺があるけれど、世の中の問題に無関心な僧侶が多すぎます。檀家さんや信徒さんのなかには難しい課題を持った方もいる。住職がどこまでそれをとらえられるかが、たいへん重要なこと。浄土宗は『社会事業宗』と評されるほど福祉に励んだ歴史もあります。現代においても『一寺院一事業』を目指せば、世の中を明るくする大きな力となるはずです」

社会は少子高齢化を迎え、福祉の充実はますます要請されることだろう。また弱肉強食のグローバリズムに翻弄され、急激な社会情勢の変化に苦しむ人は世代を問わない。物質的価値観では量ることのできない、仏教の標榜する「もうひとつの価値観」を元に、仏教者は他者のために力を惜しむべきではないだろう。

「パワーの源は南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)です」と明快に語るお二人から、念仏教化を基軸とする仏教福祉のあるべき姿を見せていただいた気がした。

今ある縁を支え、新たな縁を結ぶ ―社会慈業委員会 ひとさじの会― 世代を超えて集えるお寺を ―祐天寺―