仏教者の活動紹介

お寺の新たな可能性を体現 ―浄土真宗本願寺派光明寺 光明寺仏教青年会―

(ぴっぱら2009年10月号掲載)

●第1回青年奨励賞受賞団体

「神谷町オープンテラス」をご存知だろうか。神谷町は東京の中心部に位置し、東京タワーにほど近い、外資系の会社が軒を連ねるオフィス街である。ここに、数年前からテレビや新聞等で頻繁に取り上げられる近隣の人たちの「憩いの場」がある。地下鉄の駅から地上に出ると、立ち並ぶビルの間にお寺の門が見える。ここが、浄土真宗本願寺派の寺院、梅上山光明寺であり、オープンテラスの舞台でもある。

正力松太郎賞に、40歳以下の個人・団体に贈られる青年奨励賞が新設されたのは今回からのことである。今後の活躍が期待される若い人たちも応援し、さらなる活動の励みにしていただきたいとの願いが込められている。

その第1回目の受賞となった「光明寺仏教青年会」は、光明寺の執事を務める松本圭介さんを代表とし、松本さんの友人など、光明寺での活動にかかわる人や、活動を介してつながった人たちで構成されている。松本さんは一般の家庭に育ち、国立大学を卒業後、かねてより興味のあった仏教の道を志し、縁あって光明寺の門を叩いた。光明寺に住み込み、お寺の仕事をする一方、僧籍を取得、浄土真宗本願寺派の僧侶となった。

それからまもなく、石上和敬住職の賛同を得て、光明寺を舞台に仲間たちとさまざまなイベントを企画するようになる。オープンテラスもその一つだ。

●大都会の「憩いの場」

光明寺は、境内の梅の見事さゆえ、かつて徳川家光公により「梅上山」の山号を与えられたという。門をくぐると梅の木をはじめ、手入れのされた庭木が参拝者の目を休ませる。都心にありながら、境内の奥行きは思いのほか広く感じられる。

階上に位置する本堂へと続く、境内中央の外階段を昇っていくと、屋根付きのテラスが現れる。カフェ風の椅子やテーブルが品よく並べられており、席数は30席ほどであろうか。地元の人や檀家さんはもちろんのこと、近隣で働くビジネスマンたちも一日60〜80名ほど訪れるという。

本堂の入口はテラス中央にあり、堂内は自由に参拝できるよう、夕方まで開放されている。また、焼香台が置かれており、来場者は自由にお参りできるようになっている。テラスでは、メニューとともに、写真入りでここの過ごし方を紹介。せっかくご縁あってお寺にお寄りいただいたのだからと、来場者にはお参りをし、こころ静かに過ごすことを勧めている。飲食物も、ゴミを持ち帰るのを前提に持ち込み自由。仕事の持ち込みも歓迎である。近隣の人をはじめ、立ち寄った人が自由に、それぞれゆったりと過ごせるように配慮されている。

●お寺だからこその空間

テラスでは、スタッフによるおもてなしも受けられる。春から晩秋にかけての週3日、昼の時間にはスタッフが常駐し、お茶やコーヒー、また数量限定で手作りの和菓子を提供している。その料金はなく、お気持ちは本堂前のお賽銭箱へ。ゆるやかなシステムはお寺ならではだ。今年からは、試験的に席の予約もインターネットにて受け付けている。もちろん、ふらりと立ち寄れるシステムは従来通りである。

ボランティアのスタッフは現在約6、7名。代表の松本さんの友人をはじめ、お寺を仲立ちとしてご縁のあった方々が多く、中には、立ち寄ったお客さんでそのままスタッフになった人もいるという。

8月の午前中、まだ開店準備中であったテラスに向かうと、都心とは思えないほどの蝉時雨が降り注ぐ。眼下には墓地が広がり、その向こうにはうっそうと緑が生い茂る。テラスには一人がけの椅子のほかにも木製のベンチがあり、墓地に向けて腰掛けられるようになっている。身体を涼しい風が抜け、一瞬暑さを忘れてしまう。予想以上の開放感である。

テラスの店長、木原健さんが、アイスコーヒーと「梅擬(うめもどき)」というお菓子を出して下さった。それは、梅に似た果物をシロップで煮詰めたもので、木原さんの手作りだという。「お菓子は日替わりで、ほとんどが手作りのものです。今日も美味しくできているといいのですが......」とはにかみながら語る木原さん。木原さんは代表の松本さんの友人で、「神谷町オープンテラス」のブログ(インターネット上の日記)の管理人でもある。

メニューを見ると、「お坊さん監修・本日のお菓子」とある。商売気を出す必要がなく、勤め人のように慌しくない「お坊さんだからこそ」できるお菓子ということで、僧侶である光明寺仏教青年会の料理好きのメンバーが、こころを込め、手間ひまをかけて作り、提供することを思いついたという。

気持ちのよい空間で、こころのこもった美味しいおやつをいただく。世の中に喫茶店はあまたあるが、「お寺」という空間には、落ち着きの中にも、ただその空間にいるだけで背筋が伸びるような緊張感が少なからずある。

お寺めぐりをする若い人たちも増えているが、お寺の敷地に流れる清冽()な「気」に触れ、リフレッシュするために足を運ぶ人も多いのかもしれない。

●もっと仏教のすばらしさを

光明寺仏教青年会ではオープンテラスのほかにも、お寺という場を生かしたさまざまなイベントを企画している。音楽イベント、「誰そ彼(たそがれ)」もその一つだ。黄昏時に、光明寺のご本尊の前で音楽をゆったりと楽しんでほしいと、毎年数回開催されている。音楽あり、法話あり、飲み物・食べ物ありのイベントは、開始から5年目を迎えた現在、毎回100名以上のお客さんが集まるという。

たくさんのイベントを企画・実行している代表の松本さんだが、実際のところ、「イベントを開催すること、そのものにはあまり興味がない」という。

松本さんを突き動かす思いはただ一つ、「仏教のすばらしさをもっと多くの人に知ってもらいたい」ということだ。仏教は世代を、また国を超えて受け継がれてきた。「仏教は人から人へでないと伝わらないもの。教えの魅力を最大限に伝えるには、まず人が集まる素地を作ることが大切」と松本さんは言う。

さらに、現代のお寺のあり方についても「お寺の存在は『住職と檀家さん』という関係のなかで完結してしまいがちだが、その外側にいる人も大切にしていくべきではないか」と言及する。お寺は昔から人が集まる場所であり、僧侶の仕事とは、檀家さんのニーズを満たしつつ、さらにそのニーズを発展させていくことである。「お坊さんとこんな話がしてみたい」「お寺でこんなことをしたらどうか」という、みんなの潜在的なニーズを掘り起こしていけば、お寺はみんなに必要とされる場所になることができるのではないかと、松本さんは考える。

お寺に愛着を持って、もっと積極的に関わりたいという人が増えていくことは、お寺にとっても、また地域をはじめ、周囲の人たちにとっても幸せなことではないかということだ。

今後の活動については、「日々、自分がこれから僧侶として何を思い、何が必要かと思うかによる」と、松本さんは語る。社会の価値観が、とかく即物的な志向に偏りがちな現代の世の中において、仏教を語る切り口を工夫し、効果的にそのすばらしさを伝えていくことが、これからの腕の見せ所だという。

〝裸一貫〞で仏教の世界に飛び込んだ松本さんからは、穏やかな口調ながらも、仏教に対する愛着と未来への展望がひしひしと伝わってきた。今後の光明寺仏教青年会、ならびに松本圭介さんのさらなる活躍に期待したい。(吉)

人の力を重ねて――名刹の復興にかける 口演童話と紙芝居でこころを育む