仏教者の活動紹介

10代20代の居場所 ―浅草寺福祉会館「寺子屋ぷらと舎」―

(ぴっぱら2008年12月号掲載)

「ささえる・つながる・ほっとする」

浅草寺は文字通り「浅草の顔」だ。浅草といえば、頭に真っ先に浮かぶのは雷門の赤いちょうちん、という方も多いかもしれない。浅草寺の総門にあたる雷門を抜けると、参道の仲見世商店街が広がり、一年を通じて大勢の参拝者でにぎわう。約5万坪もの敷地には、ご本尊の聖観世音菩薩を奉安する本堂ほか、五重塔や、現存する古建築の一つである薬師堂などを擁している。都内最古の寺院である浅草寺は、浅草観音の名称で全国的にあらゆる階層の人達に親しまれ、年間約3000万人もの参詣者がおとずれる、民衆信仰の中心地となっている。
境内には諸堂のほかに、付属施設として病院、幼稚園、そして、各種相談事業を中心に福祉・文化活動を行う浅草寺福祉会館が設置されている。 浅草寺福祉会館は、関東大震災後に開設された「浅草寺婦人会館」を前身としている。「個々の悩みや具体的な問題を解決することは〝抜苦与楽〟の宗教本来の仕事であり、慈悲の実践に他ならない」という理念の下、暮らしの中で起こるさまざまな問題の総合相談機関として、困りごとや法律の各相談を無料で受け、教養講座の開講や、地域の活動への協力を行っている。
事業の要となっている福祉・文化活動は、現在では「相談事業」・「憩いの場事業」・「ネットワーク事業」を3つの柱としており、「ささえる・つながる・ほっとする」をコンセプトに、多彩な活動を行っている。

お寺ならではの居場所を

「寺子屋ぷらと舎」はネットワーク事業の一環として、昨年春に開設された。きっかけは、思春期の悩みや相談を受け、啓発活動や関係機関とのネットワークづくりを行う「思春期ねっと」の活動を行っているうちに、それを活かしつつ、もっと具体的な取り組みが行えないものかという思いがスタッフの間でわきあがってきたことによる。
これまでにも、生きづらさや人とのかかわりに難しさを感じている10代・20代の若者のための、「お寺」という場を活かした居場所がほしいという要望が挙がっていたこともあり、多方面に向けた情報収集や研修を経てスタートの運びとなった。 「ぷらと舎」という名前は、サンスクリット語の「pratyaya(縁)」が元になっているという。隔週で開催され、半年間で全10回の開催を1タームとして設定されている。
ぷらと舎の最大の特徴は、集まって話すというだけではなく、毎回行われる「体験プログラム」をこなしていくことにある。ぷらと舎は「グループワーク」の手法を取り入れており、5名ほどのスタッフが、ゲーム、ものづくり体験、料理、境内を巡るラリーなど、参加者が興味をもって取り組めるような「お寺ならでは」の企画を立案、事前の参加登録をした参加者が、その日の体調やペースにあわせて参加できるようになっている。

会期最終日の一日

暑さもようやく一段落した9月26日、「縁*園*宴!」と題したプログラムが行われた。この回は前期タームの最終日にあたり、ぷらと舎でのせっかくのご縁をふり返りつつ、美味しいものをいただきながらおしゃべりしよう!という趣旨により進められた。
会場となる会館2階の大広間、そして廊下や壁には、プログラムに取り組む参加者の写真がたくさん貼られ、梵字や粘土の作品などもにぎやかに飾りつけられていた。
ぷらと舎では、1時間半ほどの体験プログラムの時間をはさみ、前後にフリータイムとして参加者それぞれが自由に過ごせる時間を設けている。この日は早くから人が集まりはじめ、最終的には登録人数の半数ほどが出席した。スタッフも交え、持参したお菓子をつまみながら談笑する。とても和やかな雰囲気だ。
体験プログラムは、午後1時半から始まる。時間になるとスタッフ主導の下、参加者全員で集まり、ご本尊に向かって合掌、「南無観世音菩薩」と声をそろえた。こころを落ち着かせるためのこのような時間は、とても大切なものとして毎回欠かさず設けられている。ともに声をそろえることで互いの一体感が生まれるというメリットもある。
その後、スタッフの先導のもと、全員でゲームを行った。ゲームは全部で3種類。床に並べられた、漢字の偏が書かれたカードを一斉に拾い、3人で一つの漢字になるように組み合わせていくゲームなど、参加者がよりコミュニケーションをとりやすいよう配慮された内容となっている。ゲームの小道具の丁寧なつくりにも、スタッフの熱意が感じられる。

和やかな雰囲気

お待ちかねの「宴」では、スタッフが前日より準備をしたという豚汁や、のり巻き、たこ焼き、から揚げなどがテーブルにところ狭しと並べられた。カップケーキをよく見ると、生地にかわいい絵が描かれていて、こんなところにもスタッフの愛情が顔をのぞかせている。 
スタッフは参加者に積極的に声をかけ、近況や趣味の話などを質問していく。スタッフに声をかけられると参加者は安心した様子で話しはじめる。その屈託のない笑顔にこちらの頬も自然にゆるむ。 宴も佳境に入った頃、「みんなの一芸を披露して下さい」とスタッフが声をかけた。前の回から告知されていたというが、人前で何かをするということは勇気のいることである。大丈夫だろうか......。しかし、そんな心配はすぐに吹き飛んでしまった。
20代の女性は、3週間前に始めたばかりという尺八をつかえながらも一生懸命演奏してくれた。また、10代の女性は「わたしの宝物を紹介します」と言って、ぬいぐるみやアニメのビデオを並べて解説してくれた。「たとえ失敗したとしても、ここの人たちは許してくれる」「ここでは自分を受け入れてくれる」という安心感と信頼があるからこそできるのだろう。スタッフ自らも南京玉すだれなどを披露、会場中が大いに盛り上がった。

「第二の家!」

ぷらと舎の運営は、1回1回が勝負!とスタッフは語る。とはいえ、力が入りすぎていると参加者に「がんばっている」雰囲気が伝わってしまうので、スタッフ同士の打ち合わせや反省会を密に行い、効果的な運営のための共通認識を持つよう心がけているそうだ。
スタッフたちは、この場を「悩みをもつ若い人たちにぜひ活用してほしい」と語る。ここでさまざまな人とふれあい、信頼関係をもつことができれば、外の世界ではばたく足がかりになる。

たとえ、「きちんとあいさつをする」というささやかな目標だけでもいい。その人なりに何かをクリアしようと努力をすることが、積み重なって自信という大きな財産となっていく。 「みんなと過ごせて本当に楽しかった。ここでみんなと出会えたのは縁があったから。ぷらと舎で生まれたつながりは切れることがないんですよ」と、スタッフが参加者に語りかけている。
最後に、「ぷらと舎ってどんなところだった?」と参加者たちに質問が飛んだ。 「ずっと頼るわけにはいかないけれど、一番落ち着く場所」「第二の家!」と声が挙がる。ぷらと舎の連続参加は3期まで。観音様のふところで、温かいスタッフたちに背中を押された卒業生たちは、これから「第二の家」での経験を胸に、広い世界へ一歩ずつ、確かな歩みを進めていくに違いない。

(ぴっぱら2008年12月号掲載)
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