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―チャイルドライン―

Listen to Children
世界のチャイルドライン&CHIの活動
神 仁

■世界に広がるネットワーク

 世界では、1970年代から子どもや若者を対象とした専用電話が設立されてきました。現在、72の国でチャイルドラインが運営されており、13の国で設立の準備が行われています。世界のチャイルドラインが受けている子どもや若い人たちからの電話総数は、
年間1,100万本にも及びます。専門のトレーニングを受けたボランティアや心理・福祉を専攻した専門職のスタッフが、1本1本の電話に対応します。その内容は、家族の話や友だち関係といった日常の出来事にまつわることをはじめ、ときには、いじめや虐待、レイプ、HIVなどについての深刻な電話も含まれます。

 国や地域によって電話内容の傾向は違いますが、どのような内容の電話も子どもたちにとっては、それぞれに大切な1本に違いありません。電話の受け手は、子どもの声ではなく「こころ」を聴くことにみな専念しています。言葉には表われない彼ら彼女たちのこころの内に寄り添っていくのです。だからこそ、世界のチャイルドラインの合言葉はこの冊子のタイトルにもなっている“Listen to Children”なのです。「子どもたちの声“Children's Voice”を単に耳で聞くのではないのですよ」という意味が、この言葉には込められています。

 チャイルドラインは、主に電話を通じて子どもたちを支援しています。その基本はアクティブ・リスニングという姿勢ですが、世界の中には、必要に応じて他機関を紹介したり、面接によるカウンセリングを行ったり、被虐待児童のためのシェルターを運営している国も少なからずあります。

 日本ではイギリスをモデルにしながら、2000年にチャイルドラインの常設化が始まりました。以来、6年間で全国70近くの地域でチャイルドラインが運営されるようになり、年間でおよそ10万本の電話を受けています。話の内容で最も多いのは学校生活についてです。その中には、友だちや先生との関係、成績やクラブ活動、そして恋ばななども含まれます。毎年、電話の受信件数は増えてきており、チャイルドラインそのものの活動内容も少しずつ変化してきています。

■CHIの活動

世界各国のチャイルドラインをネットワークしているのが、“チャイルド・ヘルプライン・インターナショナル(CHI)”というオランダに本部を置くNGOです。CHIはインドのチャイルドラインを設立したジェルー・ビリモリアという女性の呼びかけで、2003年にヨーロッパのチャイルドラインのスタッフが中心となって正式に発足しました。現在、72カ国82のチャイルドラインがメンバーになっています。 日本も発足当初からメンバーに加わり、アジア・パシフィック地域のコーディネーターとして活動に携わってきました。2005年の1月には、初めてのアジア・パシフィック大会を東京で主催し、国内外のチャイルドラインの交流と情報交換、そして未来構想について語る場を設けました。

 CHIでは6つの具体的な活動目標を掲げています。

@世界のチャイルドラインをネットワークし、これまでの経験や実績を共有して、子どもたちにへのより効果的な支援を行うこと。
Aチャイルドラインの設立を支援し、あわせて既存のチャイルドラインの活動をより充実したものにすること。
B文化や地域性を尊重しながら、各国のチャイルドラインが共有できる基本的なガイドラインを作成し改良していくこと。
C電話会社などの通信関連機関と連携を取りながら、子どもたちがよりアクセスしやすい社会環境を作ること。
D各国のデータを集約して、子どもたちのニーズに関する世界的なデータベースを作成すること。
E地域、国、そして国際的なレベルにおいて、子どもたちの思いやかかえている問題を社会に発信していくこと。

 これらの目標にもとづいて、発足以来さまざまな活動を展開してきました。世界各国のチャイルドラインの情報交換と連携のための世界大会や地域大会の開催、チャイルドラインを新たに立ち上げる国のためのコンサルティングとカウンセリング、各国で集計したデータをもとにした“Connecting to Children”というデータブックの作成“PSP”というミニマム・スタンダード(ガイドライン)の作成など多岐にわたっています。

 この他にも国連子どもの権利委員会(CRC)やユニセフ(UNICEF)などと連携しながら、世界各国における「子どもの権利」の尊重・保護・普及活動を行っています。また、昨年からは、ジュネーブに本部を置くインターナショナル・テレコミュニケーション・ユニオン(ITU)という通信技術系の国際機関が進める“Connect the World”というプロジェクトにも参画しています。

 このプロジェクトは、世界中どの国にも等しく通信技術を広げ、人と人とが国を超えてつながることを目的としたもので、日本の電話会社をはじめユネスコなどの国連機関も参加する協働事業です。CHIとしては、いまだに充分な通信手段を持たない国の子どもたちが、一日でも早くチャイルドラインを利用することができるよう積極的にこのプロジェクトにかかわっています。


■データから見る世界のチャイルドライン

それでは、CHIが発行したデータブック“Connecting to Children”(2003年度版)をもとに、世界のチャイルドラインの概要と子どもたちの状況について見ていきましょう。このデータブックには、64のチャイルドラインのデータが収録されています。
 まずは、各国のチャイルドラインが運営面でどのような状況あるのかについてご紹介したいと思います。

・フリーダイヤルの設置状況 
アンケートに答えた64のチャイルドラインのうち、フリーダイヤルを設置しているのが86%と
なっています。しかし、フリーダイヤルのコストをチャイルドラインが支払っているケース
が70%にもおよびます。その理由は、世界的に見ても通信事業は民間が担っている場合が多く、料金をなかなか無料にできない事情があるようです。日本と同じ悩みをかかえている国が少なくないということでしょう。

・開設日時
 次に開設日時についてですが、全体の41%が365日24時間開設しています。なかでもアフリカ地域は、4つのうちの3つのチャイルドラインが24時間開設しており、他の地域と比べて割合として際立っています。
 時間帯はともかくも、66%が365日毎日開設している点は評価できるでしょう。

・スタッフ構成
 CHIでは、国連が提唱するヒューマン・ディベロップメント・インデックス(HDI/人間開発指標)を主な基準として世界の国を3分類し、それぞれのカテゴリーごとにスタッフ構成を集計しています。スタッフ全体の82%をボランティアが占めており、チャイルドラインの活動そのものが、大きくボランティアに依存していることがわかります。
 ちなみに、常勤をはじめとして有償スタッフがもっとも多いのは、HDIの中位層の国々となっています。

・受信&応答件数
 冒頭でもお話したように、2003年は無言やおためし電話も含めておよそ1,100万本の着信がありました。そのうち会話が成立し応答した電話の件数はおよそ300万本です。
着信件数としては、ヨーロッパが最も多く全体の50%、次いでアジアが36%となっています。しかし、応答した件数はアジアが39%で、ヨーロッパの35%を上回っています。また、着信に対する応答の割合もアジアがヨーロッパを上回っています。
 ここで注目したいのは、アフリカの着信件数に対する応答件数の割合です。かかってきた電話のおよそ91%でしっかりと会話が成立し、何らかの対応をとっているということになります。
 このような結果が出ている理由としては、緊急性が高い電話の割合や、留守番電話使用の有無などが影響している可能性などが考えられますが、今後、追跡調査をしていかなければならない課題のひとつでしょう。

・対応方法 
 チャイルドライン主要なツールは固定電話と携帯電話です。電話による子どもたちからのアクセス件数は、世界中で2,500万本近くにもなり、他のツールの利用件数を大きく上回っています。しかし世界には、電話以外にも郵便やインターネットを使って子どもたちに対応している国もあります。インターネットのツールとしては、メールやウェブポスト、掲示板などです。 この分野でもっと件数を伸びているのがアメリカ地域です。特にライブラリーの利用が7万件を超えており、利用する子どもたちにとっては重要なツールとなっているようです。アジア地域ではメールとウェブポスト、ヨーロッパでは掲示板が一般的なようです。また、アジアの一部では、郵便や携帯メールも使われています。
 日本のチャイルドラインは、現在のところ電話以外をツールとして利用する状況に至っていません。しかし、CHIではあらゆるツールを使って子どもたちがチャイルドラインを利用できる環境づくりを薦めており、インターネットの更なる普及を考慮すると、日本においても新たな取り組みが必要になるでしょう。

地  域
着  信
応  答
アフリカ
4
626250
6%
570788
19%
アメリカ
12
862303
8%
213015
7%
アジア
13
4158175
36%
1167148
39%
ヨーロッパ
35
5669739
50%
1031664
35%
世界
64
11316467
100%
2982615
100%

地  域
アフリカ
アメリカ
アジア
ヨーロッパ
世界
回答数
4
12
13
35
64
100%
無料(CLが負担)
2
6
7
19
33
52%
無料
1
6
4
10
22
34%
無料ではない
0
0
2
5
7
11%
不明
1
0
0
1
2
3%

地  域
アフリカ
アメリカ
アジア
ヨーロッパ
世界
回答数
4
12
13
35
64
100%
24時間毎日
3
5
6
12
26
41%
24時間ではないが毎日
1
1
3
11
16
25%
24時間でも毎日でもない
0
6
4
12
22
34%

■子どもたちの状況

では次に、実際に電話をかけてくる子どもたちの年齢や性別、そして電話の内容について見ていきたいと思います。

・かけ手の年齢
まず、年齢については、18歳以下の子どもたちが83%を占めており、当然のことながら
最も多い数字となっています。日本では就学期別に細かくデータを取っており、2004年時点では、男子は高校生、女子は小学生がもっとも大きな割合を占めています。
 しかし、世界では25歳以上のいわゆる大人も10%を占めています。これは、世界のいくつかの国では、虐待の通報や家出している子ともに関する内容であれば、大人もチャイルドラインに電話をかけることができるからです。

子どもの年齢
アフリカ
アメリカ
アジア
ヨーロッパ
世界
回答数
2
11
9
35
56
18歳未満
6959
129545
201896
671135
1009535
83%
18歳〜25歳
158
33667
15970
36327
86122
7%
25歳以上
3805
44958
20338
44448
113549
10%
合計
10922
208170
238204
751910
1209206
100%



・かけ手の性別
 性別で見ると世界的には、女子64%・男子36%と、女子の割合がかなり高くなっています。地域別で見てみても、女子の利用率が男子のほぼ2倍という結果が出ています。日本では、この割合がほぼ逆転し、2004年で女子32%・男子53%という結果になっています。一般には、男子よりも女子の方が、話好きでコミュニケーションをとりやすいから、女子の利用率が高くなるなどと言われるのですが、実際の日本の状況はこれに当てはまりません。日本の場合、女子は年齢が上がるに従い利用率が下がってきますが、男子は利用率が上がっていきます。その理由は、次にご説明する電話の内容がかかわっているようです。

子どもの性別
アフリカ
アメリカ
アジア
ヨーロッパ
世界
回答数
4
12
13
35
64
男子
3469
71389
93809
349068
517735
36%
女子
7464
127813
170170
626330
931777
64%
合計
10933
199202
263979
975398
1449512
100%



・電話の内容
 電話の内容を見てみると、何らかの情報提供を求める電話が18%ともっとも高く、次いで性に関する電話17%、こころの問題16%、家族関係13%と続きます。何らかの情報を得るために電話をかけてくるケース5件に1件ということになります。チャイルドラインの基本姿勢は、子どもたちのこころに寄り添うことがですが、情報提供もまたひとつの大きな役割ということになるでしょう。
 また、性に関する電話も多く、日本で男子の利用率が年齢に従い高くなるのは、この性に関する電話が大きな理由と考えられます。そして、こころの問題も国の違いを超えて思春期の子どもたちにとっては大きな課題です。 虐待・暴力に関する電話も9%となっており、およそ10本に1本が虐待関連の電話です。日本でも児童虐待防止法などの成立によって近年注目されるようになった児童・幼児虐待ですが、世界的に見ても大きな問題となっていることがうかがえます。また、一部の国では、商業的搾取としての児童ポルノや買春の対象となる子どもたちもおり、そのようなケースの場合には、ソーシャルワークとしての危機対応も行っています。

内  容
世   界
回答数
63
虐待・暴力
220177
9%
商業的搾取
5236
0%
ホームレス
40186
2%
HIV
2604
0%
友だち関係
152026
6%
学校関係
114624
5%
法的問題
15867
1%
非行
32863
1%
妊娠
2757
0%
経済的困窮
25897
1%
薬物
53975
2%
心身の障害
933
0%
416355
17%
家族関係
323591
13%
こころの問題
392401
16%
体の問題
16429
1%
情報提供
448787
18%
差別
140
0%
親からの電話
0
0%
お礼の電話
211
0%
不明
187578
8%
合計
2452637
100%



■日本のチャイルドライン

さて、このように世界の状況を見てみると、日本のチャイルドラインがいまどの位置にあるのか、ある程度把握することができるのではないでしょうか。そして、今後、日本のチャイルドラインがどのような方向へ進むべきなのか、おぼろげながら見えてくるのではないかと思います。

 日本のチャイルドラインの歴史は、トライアルの時期を含めてもまだ10年に満ちません。子どもにたとえれば、小学校の4〜5年生といったところです。しかし、あと1〜2数年もすれば小学校は卒業です。どのような中学校へ進学するのか、そろそろ真剣に考えなければならない時期になっています。

 さらには、高校や大学などを経て、どのように自立した自己を築いていくのか、諸外国の例を参考にしながら、全国のチャイルドライン関係者に考えていただきたいと思います。“Listen to Children”を合言葉にしながら、子どもたちにとって寄り良いチャイルドラインになるために、ともに手を取り合いながら着実に前へ進んでいきましょう。


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